ヴィオロンチェロ・ピッコロとヴィオロンチェロ・ダ・スパッラの違いについて

先日、三木恒路さんにお越しいただいた際に、昔の大きな横持ちのチェロの様々な図版を三木さんがお示し下さり、それを通じてここ最近私の方から皆さんに提案させていただいている肩掛けチェロの保持の仕方との違いが話題になりました。

そこでこの機会にヴィオロンチェロ・ダ・スパッラ(violoncello da spalla、肩のチェロ、肩掛けチェロ、shoulder cello)と、ヴィオロンチェロ・ピッコロ(violoncello piccolo)の名称が指し示すものの違いについて現状の見解を述べて改めてここに示しておきたいと思いました。

ヴィオロンチェロ・ダ・スパッラは文字通り、肩のチェロと直訳されるように、横持ちで肩のあたりで支えて弾かれた大小のチェロのことで、この名称の起源はイタリアに見られます。

一方でヴィオロンチェロ・ピッコロは、J.S.Bach自身が用い、Bachの周辺のみに見られる呼称で(もし、Bach以外の場所で1750年以前に使われているところをご存知の方があれば、ぜひご教示ください)、現存する楽器の調査や演奏家の方々が指摘される楽譜上の表記・演奏感などからも、おそらくはJ.C.Hoffmannが作った小型の5弦チェロを指していると私は考えています。

別の言い方で、二つの名称を統合してみると、チェロが大区分ならばヴィオロンチェロ・ダ・スパッラは中区分、ヴィオロンチェロ・ピッコロはその中の小区分という見方もできるかもしれません。

いずれにせよ、ヴィオロンチェロ・ピッコロは、ヴィオロンチェロ・ダ・スパッラの1種とは言えるかもしれないものの、すべてのヴィオロンチェロ・ダ・スパッラがヴィオロンチェロ・ピッコロかというとそうではないということになります。

ここで、冒頭の三木さんとの話に戻るのですが、イタリアで見つかる比較的大型のヴィオロンチェロ・ダ・スパッラの図版に見られるチェロの保持の仕方と、J.C.Hoffmannの小型チェロの保持の仕方が同じであらねばならないということはなく、むしろ私はそのサイズや構造面から、まったく異なる保持の仕方があったと考えています。

ヴィオロンチェロ・ダ・スパッラにおける楽器の保持の仕方は、楽器のサイズやシチュエーションにより様々であったのはもちろんですが、大型と小型の楽器の保持の仕方を同一線上で議論すること難しいため、今後は大きなチェロの保持の仕方についてはまた別の探求が必要であろうと考えています。

こうしたことからも、私がJ.C.Hoffmannのモデルのチェロの保持の仕方について特に注目してきたのはマッテゾンの資料と、バッハの従兄弟ワルターの資料に見られる記述と図版ですが、ワルターの資料は過去の投稿にも図版を載せていたはずなので、改めてぜひご覧いただければと思います。

最後に、最近スパッラという名称を使わずにヴィオロンチェロ・ピッコロと呼ぶことが増えていますねと多くの方に言われるのですが、これはその通りで、これまで散々「現代の普通のチェロより少し小型の5弦チェロ」というものがきっとあり、それがヴィオロンチェロ・ピッコロに違いないの考えて探してきたのですが、そのようなものは現在までにまったく見つかっていません。

ヴィオロンチェロ・ピッコロ(スパッラ)もかつては散々、そんな楽器は存在しないとまで一部の、特にアメリカの、音楽史家に言われていましたが、ヴィオロンチェロ・ピッコロについては少なくとも数台が現存するばかりか、バッハ没後にも細々と作られ続けたことが確認されており、バッハの周辺からは1台も見つからない「現代の普通のチェロより少し小型の5弦チェロ」よりも、ずっと信憑性があると言わざるを得ないのです。

念のためもう一つ付け加えておくと、「現代の普通のチェロより少し小型の5弦チェロ」がバロック時代になかったということではなく、それはおそらくたくさんあったのですが、それがイコール、ヴィオロンチェロ・ピッコロだと立証される根拠は今のところ見当たらないということになります。

ここまで書いてきましたが、誤解を避けるために書いておきたいのは、「現代の普通のチェロより少し小型の5弦チェロ」でバッハの曲を弾くことには私はまったく反対ではないということです。ただ、それをヴィオロンチェロ・ピッコロと呼んでしまうのは、1台も楽器が見つからない以上、少し難しいと考えているというだけのことです。

「現代の普通のチェロより少し小型の5弦チェロ」の名称は「小型の5弦チェロ」で今のところ十分だろうと考えており、そのことは最近はチェリストの山本徹さんとの意見交換をさせていただいたところです。山本さんのご公演を知っている方はおそらくは5弦の縦弾きチェロを使われる際に、ヴィオロンチェロ・ピッコロという名称は使われていないと思います。

花形のヴァイオリン共々、低中音楽器が百花繚乱であった時代の復活を当工房は今後とも探求していってみたいと思います。