
ここからは今回のプログラムの内容について何回かに分けて触れてみたいと思います。
内容は一見、専門的に内容に思われるかもしれませんがバロック音楽や弦楽器に少しでも興味のある方なら、どなたでもご参加いただけるものとなっていますので、これからバロック音楽やガット弦について知りたいという方にとっては、一気に理解のステージを上げるまたとない機会になると思います。
また、その一方で長く古楽やバロック音楽、ガット弦に関わってこられた方にとっても、目から鱗の新しい発見の多い研修になるものと確信しております。
その理由は、従来の観光主眼のツアーにない、学びを前提としたプログラムになっていること、また訪問場所にいずれもが弦楽器の誕生にゆかり深く、その史実や文化を今に伝える内容を豊富に含んでいるためです。
現在予定されているプログラム(まだ確定ではなく、現在現地の各訪問場所やホテルなどと調整中とのことです)に沿って少しずつお話してみたいと思います。
プログラムをご覧になった方には、今回の主たる工程が、弦楽器製作のメッカと呼ばれるクレモナ ではなく、むしろそれよりもやや南方のボローニャやモデナを含むエミリア・ロマーナ州にあることに気づかれた方もおられると思います。
あまり知られていないことですが、実は戦前のクレモナでは弦楽器製作は途絶えてしまった文化でした。それが当時のファシズム政権の元で昔の威光を取り戻すのだと現在まで続くクレモナの弦楽器製作学校が作られました。その陰でエミリア・ロマーナ州にあった製作学校がひっそりと閉校に追い込まれました。このことはまた詳しくは別の機会に譲りたいと思いますが、文化は辺境に残るという言葉があるように実はクレモナの弦楽器製作文化が終焉を迎えた19世紀以降はむしろクレモナ以外の町にイタリアらしい弦楽器製作の文化が残っていたと言えます。
エミリア・ロマーナ州もその中心的な役割を果たした場所で、クレモナの後に素晴らしい製作家を多く輩出しました。私自身もモダン(現代)スタイルの楽器製作の注文を受ける時には、そうしたボローニャ辺りの製作家を念頭に置くことがしばしばあります。
今回、研修行程の最初に訪れるモデナのLorenzo Frignani工房は、現代のクレモナに見られる多くの工房のようにヴァイオリン属に特化せず、かつてのアマティやストラディヴァリの工房からそうであったようにギターからヴァイオリンまで幅広く製作・修理をする工房です。1つの楽器に集中をした方が洗練や専門化は図れるかもしれませんが、弦楽器製作者のことを今でもイタリアではリュータイオ(liutaio=リュート製作者)と呼ぶように、むしろ撥弦楽器から、ヴィオールから、ヴァイオリン属やハープなど弦を冠するものならなんでも扱うというのが、昔の製作者の姿でした。
蛇足ですが、ストラディヴァリは楽器ケースまで作っていたことはよく知られるところです。
そのようにクレモナ では見られない珍しい工房を最初に訪問します。
こうした工房の訪問が昔からの音楽に心を寄せる皆様にとって、ガット弦という一つの素材を中心に縦横につながりをもつ幅広い文化であったことを覚えていただければ、音楽の見方や取り組み方もまた変わっていくのではないかと思います。
次の投稿では、なぜボローニャ〜モデナかというところにも触れてみたいと思います。