道を拓く仕事

このところ来年2019年4月に埼玉県飯能市に開校を予定しているヴァイオリン製作学校の準備に忙しく、しばらく更新ができていませんでしたが、おかげさまで4/30に製作学校のHPをようやく公開することができました。まだ準備はこれからですが、認知を広げることにご協力して下さっている多くの方々に心から感謝します。

製作学校の準備を進める中で、この12年ほどのことをいろいろと思い返すことも多かったのですが、12年前も現在も人と仕事のありようというものはさほど変わらないものだと感じています。

12年前に都内でヴァイオリンの製作学科を立ち上げた時以来、事あるごとに尋ねられてきた質問があります。それは、

「(ヴァイオリン製作学校を)卒業したら就職できますか?」という質問でした。

保護者の方がご心配をされる気持ちは非常によく分かるのですが、一つ言えることは、これまでの受講生・卒業生の中でしっかりと仕事に就き、またその後も人として成長を続けている人たちには、「何を学べるか」ということを問わずに「卒業したら就職できますか?」という質問をしてきた人はいなかったということです。

なぜなら、よほどおかしな学校に行かないかぎりは、「就職できるかできないか」が問題なのではなく、常に問題なのは質問者自身が「就職するかどうかを決めているか」ということだからです。

自分で、就職をするのだと決めてその行動がとれるか、あるいは将来工房を開くと決めてその行動がとれるかということであり、「就職できますか?」と尋ねて誰かが「はい、できます。」と答えてくれれば安心という発想は、よく考えてみればとてもおかしいことだと分かるのではないかと思います。

それでもその確約が欲しいのだと言う人は、厳しい言い方ですが、弦楽器の技術者の道を選ぶのはやめた方がいいでしょう。

もちろん、そのような質問をしなかったからと言って、弦楽器技術者の道を選んだ卒業生の皆さんに不安がなかったわけではありません。しかし、その不安を直視しながら、自分がそもそも何を問うべきかということを自問できる胆力は大事なのだと、それぞれの人のその後の成長の見ると思えてならないのです。

繰り返しますが、就職できますか?と問うのではなく、自分が将来どうしたいのか、またそのためにどういうアクションをとるべきなのかと自問することに尽きるのです。なぜならそのような問いかけの前提にはすでに「自分は弦楽器技術者になる」という決心があるからです。

もしその決心の道筋の一つとして、皆さんが「ヴァイオリン製作学校たくみ」を選ぶのであれば、最大限のサポートは惜しみません。しかし、就職するかどうかを決めるのは、実は学校でも企業でもなく、皆さん自身だということは常に忘れないでいただきたいと思います。道というものは、決心をした人にしか開かれないものだからです。

よく考え、孤独な時間を過ごし、繰り返し自問し、「すべての情報や条件がそろうことなどない」ということを知り、決断すべき切っ掛けのない中で自らがその口火となって決断できるかどうか・・・多少大げさですが、そういうことであるように思います。

いろいろと厳しいことを書き連ねてしまいましたが、実は就職率と、離職率という観点から見れば、この12年間の実績は、卒業生の頑張りもあり、業界の中ではよい実績を出せてきたと自負するものがあります。また就業後に独立し、工房を構える人や、工房長のような立場で工房を切り盛りする人も少しずつですが増えてきました。

弦楽器製作家は、多くの側面をもった仕事です。製作家は、芸術家であると同時に職人であり、また時に修理士であり、時に研究者であり、時に樵(きこり)であり、時に音楽の愛好家であり、時に錬金術師であり、時に商人であり、そして時に開拓者である覚悟が求められると思います。覚悟というほどの悲壮感は必要でないとしても、少なくとも自分で進むべき道を決めることは必要です。

誰かが敷いてくれた道を歩く仕事ではないということ、これだけは今も12年前も変わりません。

ヴァイオリン製作学校を巣立ち、活躍している個々人は自ら道を切り開いた人たちであり、また今なおそうしている人たちだと思います。

2019年4月開校予定

ヴァイオリン製作学校たくみ

https://takumiviolinmakingschool.com/