砥草(木賊)(とくさ)と呼ばれるツクシに似た植物があり、私たち弦楽器製作者はこれを楽器の仕上げみがきによく使います。
天然のサンドペーパー(紙ヤスリ)のようなものです。
ストラディヴァリの時代には今のような様々な番手(粗さ)の性能のよいサンドペーパーはありませんでした。(当時はcarta vetrata と言い、羊皮紙の上にニカワを塗ってその上にガラスの粉をまぶしたものであったことが、その当時の手稿から伺えます※)
そのため木工の仕上げには、鮫皮や砥草が使われていたと言います。
さて、この砥草ですが、実はイタリアではcoda di cavallo (馬の尻尾)と呼ばれ、英語でもhorse tail と呼ばれるように、日本でよく見られる一本立ちのすっとしたツクシのような「砥草」と違い、茎から沢山の馬の尻毛が出るかのようにフサフサしているものを多く見かけます。
つまりは同じトクサ科トクサ属には違いないのですが、だいぶ見た目が違います。初めて見たときはなるほどだから「馬の尻尾」と呼ばれるのかと思ったものです。また、私が知る限りでは、イタリアでは見かけるcoda di cavallo の方が、他で見かける砥草よりも細めです。研磨した時に具合は大して変わりません。
この砥草は古生代のデボン紀からすでにその姿が見られる非常に古い歴史を持つ植物のようですが(※イタリア語Wikipedia参照)、世界各地で見られるので、入手はさほど大変ではないのもいいところです。
クレモナではポー川沿いに季節になると生えているので、それを摘んできては乾燥させてとっておいて、必要な時に使っていました。お金もかからず、表面の光沢もよくとても重宝がられています。
ただ、砥草の使い方にはまだ課題もあって、砥草を採取してから、そのあとどのようにして使うかということについては、あれこれ試してはいるもののまだ十分に検証ができていません。
今なところ、上の写真のような乾いた砥草を使う時に水に濡らして広げて使っているのですが、まだ採れたての緑の時に広げておいた方が良かったかなと思ったりしています。広げた砥草はもろいので、裏側をマスキングテープで裏打ちして使っているのですが、サンドペーパーもなければ、マスキングテープもなかったでしょうから、昔の人はどうやって使ったのか気になります。
昨日はヴィオロンチェロ・ダ・スパッラのスクロールを磨きながら、もう少しその点についても踏み込んでみたいと考えていました。
参考資料
‘Memoirs of a Violin Collector’ Count Ignazio Alessandro Cozio di Salabue, BRANDON FRAZIER