移行期のバロック・ヴァイオリン

Interesting transition period violin entrusted by friend luthier in Tokyo. Still has original neck and bassbar.

都内同業者からセッティングを依頼されてお預かりしたザクセン地方の古い楽器ですが、当工房で手を入れてこちらで販売させていただきました。

最近では大変めずらしくなったオリジナルのネックやバズバーを残した18Cごろの移行期のヴァイオリンです。

オリジナルのネックというと少し詳しい方は釘打ちをされたクレモナ式のネックを想像されるかもしれませんが、今回の楽器は釘打ちではなく、ネックそのものが楽器本体の中に伸長するタイプのもので、広くヨーロッパ全体で見られた工法の一つです。

ドイツはザクセン地方のものが有名ですが(比較的近代まで工法を引き継いだため)、私が知る限りでもバロック時代にイギリスやイタリアにも同様の作りを採用していた製作家が見られます。

移行期というのは、古典期、あるいはロマン派の時代ごろに作られた楽器で、バロック・ヴァイオリンとモダン(現代仕様の)ヴァイオリンの橋渡しをするような仕様で作られた楽器を指しています。

こうした時期のヴァイオリンは、市場ではバロック・ヴァイオリンとしてひとくくりにされてしまっており、それでもよいのですが、今回はバロック・ヴァイオリンとはあえて呼ばずに、トランジションピリオド(移行期)の楽器として、バロックに限らず古典派などの音楽も再現してみたいと考える方に手に取っていただければと考えました。

移行期の楽器もそれらが作られた時期により仕様やセッティングが異なってきます。
このヴァイオリンは、比較的バロック寄りと言ってよいと思うのですが、その根拠としては、ネックの長さと形状、元々の駒や魂柱の位置などが挙げられます。

ほぼ同じ構造で、20世紀初頭ぐらいまでザクセン地方で作られ続けていたものがあることが知られていますが、そうしたものはたいていネックが現代のものと同じように細く長く、駒も現代と変わらない位置に最初から立てられているなどいくつか異なる特徴や痕跡があり、今回のものは明らかにそれらよりは古い時代の特徴を備えています。

細かいことは書ききれませんが、こうした楽器が近年はほとんどモダン(現代)仕様に改修され、特に古い時代の移行期の特徴を残した楽器が見つかりにくくなってきているため、十分に希少なものと言えるのではないでしょうか。

今回は当初委託品として当工房で預かり、セッティングを調整したため、現状では弦や駒などは元々ついていたものをそのままにしておりますが、時間を見て新しいオーナーさんと共に改善を続けていきたいと思います。

希少な形を残した楽器がこれからも末永く大事にされること、また楽しまれることを願ってやみません。