古澤巌さんとの調整を通して

このところ古澤巌さんの肩掛けチェロを2週2度に渡って弦高調整をさせていただきました。

大阪で3月30日に予定されているジョヴァンニ・ソッリマの【100 チェロ】に古澤さんもスパッラで参加してくださるというのです。

そこで課題となったのが、すでに5弦あるのにもかかわらず、さらにハイポジションに行くという難行でした。もともと肩掛けチェロはあまりハイポジションに行かなくてよいように5弦になっているわけですが、それでもなお行かれるというので、できる限り演奏家の希望するセッティングに近づけてみました。試行錯誤あり、リミットもありましたが、最後には「凄くよくなりました!ありがとうございます」と言ってくださり、ホッと胸を撫で下ろしました。

この作業を通して、肩掛けチェロの課題や、これまで十分追求できなかったセッティング(今回はモダン)のいくつかの点をさらに深く追求する機会を得られたことを感謝しております。

音楽のジャンルという言葉がありますが、ソッリマにしても、古澤さんにしても、ジャンルという言葉から抜け出し、自らの音楽を楽しむタイプの音楽家だと思います。

それは肩掛けチェロを再現する上で私自身が辿ってきた昔のバロック楽器の謎に踏み込む調査や試行錯誤とは必ずしもイコールではありませんが、それでもそうした土台があったからこそお役に立てているのかなと思うと、やはり製作家としてはうれしいものがあります。

また、私はガット弦の重なり合う芳醇な響きが好きですが、それでも明らかにより大きなマーケットとして現代に広がったクラシックのモダン的な響きがあるからこそ、古楽的な響きが生かされる側面がまだまだあるのも確かであることを思いながらお手伝いさせていただきました。

どんなジャンルであれ、知らず知らずお互いを生かし合っていると思いますし、だからこそそのような関係性の中で、他の人がまだやったことがない道を進んでいる演奏家の方々は、あらゆる方面の人々に刺激を与えているのではないかと思います。

そのような今に生きる演奏家の方々がつながってくださっていることをとてもうれしく思いつつ、私もまたインスピレーションを提供できるように、今後も地道な調査と製作を続けていきます。