
先日、バロック・ヴァイオリニストにして、オーケストラ ファン・ヴァセナールを率いる赤津眞言さんと、今回ご一緒にツアーをされている今田利さんが工房にお越しくださいました。
その時に、今田さんがお弾きになっているドイツ人の修理人の方が作られたというスパッラを見せていただきました。

そのスパッラは、今田さんとドイツ人の方が試行錯誤して作られたものとお聞きしましたが、製作者もバロック楽器を作ったことがなく、スパッラも初めてだったということで、確かに構造的にはモダンの工法で作られた楽器でした。
つまり、ネックはボディに差し込まれており、サドルはパーフリングを切断して入り込んでいるなど、モダンの知識をベースにしつつ、お二人の創意でどんな形がよいだろうかと一所懸命意見交換をしながら作ったものであることが見てとれました。全体の作りや塗装もドイツ人らしい気風のもので、当工房の取り組んでいるバロック時代の工法による当時の楽器の再現とはコンセプトが違うため、単純に比較はできませんが、いかに現代の製作家が製作学校の影響を受けているかということも今さらながら考えさせられました。
いいわるいの話では決してないことは予めお断りしておきますが、セッティングの仕方も絶対に自分ではこうしないという位置にバズバーと駒が対応していたり、アーチや板厚も私が作るものより端に行くにつれて扁平で薄く、ニスも木を隠す風で異なり、つまりは作りたいと思っている音の方向性や美的感覚が全く違うのだということが、とても新鮮で、また興味深く感じられました。
工房で聴かせていただき、また試奏させていただいたので、ある程度予想していましたが、実際にコンサートではとても柔らかく温かい響きの印象を受けました。
今回のツアーのテーマがヨーロッパの街角にあるかのような「日常に楽しむ美しい響き」ということでしたので、今田さんのスパッラはその点でテーマにも合っていると感じました。
特にアーチリュートとのデュオは、音のバランスがとれており、素晴らしかったです!
その一方で、ヴァイオリンとスパッラの組み合わせでは、ヴァイオリンに比べてスパッラがぼんやり感じられ、スパッラの音に私自身が期待するきらめきや、倍音と共に遠くでもくっきりする音の輪郭が乏しいと感じました。旋律楽器と通奏低音楽器という性質を兼ね備えるスパッラですが、ヴァイオリンと組み合わせるともっと一緒に上昇できるようなものを私自身はつい期待してしまいます。今田さんの腕前も素晴らしいだけに、赤津さんのヴァイオリンに応えるならなおのことと思ってしまいました。これをドイツの楽器だからと捉えるよりも、製作者個人の資質や方向性なのだろうと思いましたが、共演する楽器によって印象が大きく異なる興味深い対比でした。
繰り返し言いますが、これはよいわるいの話ではなく、批判でも何でもないのです。弦楽器というものは、弾き手や作り手によってその追い求めるものが異なれば、まったく異なる楽器になりますし、そういう差異のある楽器が増えるほどに音楽は豊かになると思うので、広い視点から見ればやはり素晴らしいことに違いないと思うのです。
結局、自分は自分に作れるものしか作れないし、他の人が作るものを作りたいとも思えないのですが、それは他の職人さんでもそうだろうと思うので、こういうまったく違う志向性のスパッラが出てきているということ自体が素晴らしいことと感じました。
自分とは異なる視点に接していろいろ刺激を受けましたが、イタリアの薫陶を受けている自分がいまさら他の道を取れるわけではなく、またイタリアの演奏家が社会を席巻していたバロックという時代の風をこれからも自分なりに追求し、調べて、今の時代に楽しんでいただけるものとして再構築していきたいと思っているので、そうするしかありません。
と言いつつ、今回、今田さんのスパッラを通して刺激を受けたことで、ドイツ育ちでもある自分自身の別の面の欲求にも取り組んでいきたいとの思いを新たにできたことにも感謝しております。
さて、ここまでは職業人の耳で聴いた話でしたが、コンサートは一人の聴衆として本当に楽しませていただきました。
赤津さんの音が聞きたいと思い行ったコンサートでしたが、プログラムも素晴らしく、聴衆を飽きさせない工夫が随所に盛り込まれ、大変贅沢な時間だったと感謝しております。
オーケストラ ファン・ヴァセナールの公演はまだしばらく各地で続きますので、まだ行かれていない方は必聴です。お三方の素晴らしい響きの重なり合いをぜひお聴きになってみてください!

(いつも素晴らしい出会いをつなげてくださる赤津先生には感謝しかありません!)