三連休の最初の2日間に長野、松本市に行ってきました。行きに6時間、帰りに2時間40分という道でした。
今回の松本行きの主な目的は、髙橋弘治さんと富田牧子さんのバロック・チェロのデュオコンサートを聴かせていただくことでした。
合わせて、松本市内で少しだけ仕事もしてきました。
コンサートは松本市音楽文化ホールの音響の素晴らしさも相まって、素晴らしかったです。
バロック・チェロのオーガニックな響きに加えて、髙橋さんと富田さんの演奏を純粋に堪能できる演奏会でした。
バロック・チェロの響き自体を知る人がまだまだ本当に少ないと思うため、聴いたことがない方にはぜひ足を運んでいただきたい内容でした。今後もお二人のデュオがあれば、ぜひ聴きに行ってみてください。

コンサートとはまったく別件で、終演後にお二人から弓についての意見を伺う機会がありました。
その中で、バロック弓の弾きやすさとは何かという話があり、私もまだ結論の出ないことではあるものの、関心がある方にも聴いていただければと思い、シェアさせていただきます。
バロック弓を現代の演奏家が持ち、弾きやすい弾きにくいという時、そのほとんどが無意識にもモダン弓の弾き心地を基準としていることは明らかと感じる場面が多くあります。
そのため、弓毛があまりスティックから離れず、また弓の反り加工(削り、火入れ)による吸いつきの良さや音量などがバロック弓でも求められることがあります。
これに対し、絵画資料や実際に残された弓を見ていくと反り加工を施していたらこういう形にはならないというものが実際には沢山あります。
そこで、弓を作る時に、何を意図するか、現代の弾きやすさを意図するか、当時(時代も場所も様々でまた当時から統一されたものはなく、仕様もまたかなり雑多であったと思われますが)の再現を追求するかということで、作られていくものもほとんど180度変わっくることも珍しくありません。
その点で、髙橋さんと富田さんは、様々な仕様の弓の特性を理解しつつ、試すことを続けられており、今回のコンサートの間にも弓を取り替えるシーンがありましたが、その度に音楽の姿を考えさせられました。
当工房でいちばん最近作ったヴァイオリン弓は、バロック仕様とは言え、山なりではない逆反りを入れました。おそらくスティックの軽さ細さ、求められる感触、音楽の中での役割の面で、確証はないもののヴァイオリンの弓が当時も最初に逆反り(モダンの弓の反り)が取り入れられたのではないかと感じています。もちろん反りのないヴァイオリン弓もあったとは確実に思いますが…。
どんどんソリスティックになっている現代の中低音楽器に比べて、バロック時代、特に初期の音楽がどのように弾かれていたかということ、また現代のコンサートステージにおいて演奏家の評価につながってしまうパフォーマンスに提供されるべき弓が本当にヒストリカルな仕様でよいのかということは、悩ましい問題です。
バロックのピリオド楽器・ピリオド弓による演奏がヒストリカルなものとして皆さんの耳に届くには、それを評価する聴き手の好みの高まりも必要かもしれませんが、あまりに細かい話になってしまうような気がして、なかなかそこには踏み込めません。
ということで、今回の松本の空模様のような話で、何の結論もご提供できないのですが、見ただけ、聴いただけ、そして弾いただけでよしわるしを言うのは本当に本当に難しいということをシェアさせていただきたいと思った次第です。
そんなことを考えながら、往時の音楽の再現に挑戦を続ける演奏家の変化を楽しむべく、また今年はいろいろな演奏会に足を運んでみたいと思います。

