バロック・チェリスト髙橋弘治先生の試奏~ピッコロとスパッラをめぐって

今日はバロック・チェリストの髙橋弘治先生が、ピッコロ・チェロを携えて当工房にいらしてくださいました!

バロック・チェロを弾かれる方は私の周りには決して多くなく、その上、ピッコロ・チェロまで弾かれる方は本当に少ないため、一度お話を伺ってみたいなあと感じていましたので、今日お越しいただくことが楽しみでなりませんでした。

到着されるなり、お茶も出すのを忘れていろいろなことをお話させていただいてしまいましたが、ヒストリカルな演奏・楽器にまつわる先生のご視点、ピッコロ・チェロについてのお考え、チェロの楽譜・運指にまつわることなど、本当に多岐にわたるお話をいただき、内心欣喜雀躍する楽しい時間をいただきました。

髙橋先生は、私も肩掛けチェロのことでお世話になっているオランダのディミトリー・バディアロフさんともブリュッセルの音楽院で勉強されていた時期が重なっていた時期があったということで、演奏家の方からしか聞けない観点のお話も含めて興味深く聞かせていただくことができました。

別のブログ記事にも書いていますが、私はスパッラはたとえバッハの時代に存在していたとしてもプロトタイプ的な楽しい楽器だったと思っているのですが、ピッコロ・チェロもそれに劣らず、チェロという楽器の歴史の中では非常に特殊な存在であったのではないかということもお話を通じて考えることができました。いずれピッコロ・チェロも作ってみたいなあと思っていたため、お話いただいたことはこれから時間をかけて私なりに咀嚼し、消化していきたいと思っています。

お話だけでなく、今日は、スパッラ(イタリア語で「肩」の意味)を文字通り肩と、また脚にはさんで試奏していただき、ピッコロとスパッラの違い、スパッラ同士の楽器による音の違い(脚にはさんで)までも聞かせていただきました。

さらに、勉強になりうれしかったのが、弓の試奏をいくつもしてくださったことです。

実は自分で作って、これまでも多くの方に活用いただいていたにもかかわらず、スパッラの「肩での演奏」では、当工房で作っている“クリップ・イン”と呼ばれる初期バロックに見られるタイプの弓の効果がもう一つ私もわかっていませんでした。

バディアロフさんの友達のセルゲイ・マーロフさんなどが「スパッラはクリップ・インにかぎる!」とまで言っていると聞いてはいましたし、天野先生、赤津先生をはじめとするすばらしいヴァイオリンニストの先生方が用いたり試奏し、評価もしててくださったのですが、それでも腕の位置・動き方の違いのせいか、見た目では理解はできていなかったのです。

今日は髙橋先生がお持ちくださった一般的なモダン・ボウの形状に近いクラシカルな弓と、当工房で作った初期バロックに見られる湾曲した形状の弓(「初期バロック・ボウ」あるいは構造から「クリップ・イン」と呼ばれたりします)の両方をかわるがわるに弾いてくださり、バッハなどの曲には湾曲した形状の「初期バロック・ボウ」だと移弦をするときに弦から弦に移ることが容易にでき細かいアーティキュレーションを表現しやすいということを私でさえもはっきりと理解をすることができました。

逆にもっと後の時代の音楽で、長いフレーズを歌うような表現の音楽にはクラシカル・ボウの形状の弓が本当に合うということも教えていただき、なぜ演奏家の方がいくつもの弓を持たれるのかということが改めて直接的に理解できました。

なぜ肩弾き(横持ち)の演奏のときよりも、今日のように縦持ちの方がそれが見た目にはっきりと認識できたのかということは私も今一つ分析できていないのですが、あまりの明確な違いにびっくりしてしまいました。チェリストの方でバッハの曲を“クリップ・イン”の弓で弾いたことがない方は、ぜひぜひ試してみていただきたいと思います。あるいは髙橋先生のレッスンがあれば受講されてみることをお勧めします。きっと違いを感得され、驚かれると思います。

あわせて駒のカーブについても、横持ちと縦持ちでは変わってくるのではないかという視点を得ることができたので、今後のスパッラの駒の改良にもさらに役立てたいと考えています。

今後はピッコロとスパッラ、そして大きなチェロ(さらに歴史の中に消えたさらに大きなチェロなども?)を交えて、まだまだおもしろそうなことができそうだなと、ひらめきが浮かんだ時間でもありました。

髙橋弘治先生、今日は遅くまでお時間をいただき本当にありがとうございました!

 


12月に4弦と5弦のチェロを両方使ってテレマン『ハンブルク四重奏曲』の演奏会を東京と名古屋でされるということで、楽しみなのでこちらに紹介させていただきます。

名古屋 https://5r-hall.com/event/5244

東京 http://oumigakudou.com/cn26/cn14/pg2548.html