楽器設計技術の見直し

img_6186-1皆さんはどのようにして弦楽器が設計されているかご存知ですか?

実は永い間、弦楽器の設計方法は失われたままでした。今日でも、広く知られているとは言えません。そのため、昔の名人たちがいなくなった後は、彼らの楽器を模した楽器が多く作られてきました。

そうした中で、近年楽器の設計方法をもう一度見直そうという熱心な研究が行われてきましたが、多くの場合、その研究は楽器の「内型枠」と呼ばれるものを再現しようとするものでした。少し分かりにくいかもしれませんが、これは楽器を作るときに使う元となる型枠のことです。

なぜ型枠の再現に努めてきたかと言うと、ストラディヴァリが型枠しか後世に残さなかったからです。正確には、型枠しか後世に残らなかったと言うべきかもしれません。また、実際問題、楽器を作る上で型枠の設計と精度は非常に重要で、その上にすべてが組み立てられると言っても過言ではないため、我々は型枠を重要視してきたのです。

しかし、楽器のプロポーションをつぶさに見ていくと、全体のプロポーションは内側の型枠でなく、外側のアウトラインをベースに設計されているように見えてきます。

もちろん型枠をデザインすることも可能なのですが、あくまで古い時代のイタリア・クレモナの製作家たちは外側の姿形を基準にしていたように見えるということです。

このことが最初に見えてきたときに、内型枠を基準とすることに慣れていた私自身も非常に戸惑いました。音にとっても大事なのは内側だったはずなのでは?と考えたからです。

しかし、何度やってみても楽器の内部、内型枠を基準にしてしまうと、内型枠をもたないネックやスクロールとのプロポーションの関係が明らかに崩れてしまうのです。

そのため、今では、まずプロポーションを割り出したら外側のフレームを出し、その中に内型枠を求めるようにしています。(考えてみれば、リュートなどの撥弦楽器も、構造は多少違うものの、外側を基準としていました。)

設計法を見出すとどのようなメリットがあるかと言いますと、もちろん伝統に沿いつつ自由な設計ができるばかりでなく、適当な弦がある限り、演奏家の手に合わせた楽器を作ることもできるようになります。

現代において標準とされていることを金科玉条とするのではなく、演奏家の方がどのような音と響の傾向を好むかということを一緒に聴きながら楽器を設計をすることもできるというおもしろいことができます。

ストラディヴァリやグァルネリやアマティの時代には彼らは互いに影響は受けつつも、何かを模して作るのではなく、それぞれの親方たちが楽器設計をゼロからしていたでしょう。だからこそ個性豊かなさまざまな種類の楽器が生まれ、どれもが「オリジナル」だったのです。

設計方法を持たずに量産されるモノは、当たり前ですが、楽器に限らずオリジナリティーを持ち得ません。そのため現代では残念なことに「オリジナル」を残す古い楽器が珍重され、その値段がどんどん上がっています。

その影響はひと昔前の量産楽器にまで反映され、古いというだけで値段が高い楽器までたくさん出回っているありさまです。もちろん古いものの中にも良いものはありますが…。

…ヴァイオリンは出自のはっきりしない楽器で、それはおそらく酒場の楽器だったからと思われます。つまり、それほど高い値段のものではもともとなかったはずです。

しかし、その楽器を芸術の域にまで高めたアマティ一族などの功績もあり、ヴァイオリンは歴史の中で徐々にマジョリティーとなっていきます。

それでもヴァイオリンはかつては今日見られるオールドと呼ばれる古い楽器ほど高くはなかったでしょう。

当時はストラディヴァリでも、「適当な値段」のよい楽器だったのです(もちろん、彼らが貴族をパトロンにもち、王侯貴族に納品していたとしても)。

それは今日でも同じにできるはずで、設計法とよい木材、よい技術、よい弦がある限り、オリジナルとしてのよい楽器を作ることはでき、それは古い楽器と比べても遜色ないものとなっていくと思います。

知ってしまえばとてもシンプルなことですが、このようなところにも昔かながらの小さな個人専門工房の仕事として、皆様に提供できるものがあると思います。

(もっともクラシカルなプロポーションの一つに基づく製図、アウトラインの内側に型枠のラインが現れる)

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