バロック・ヴァイオリンは白かった?

私は絵画についてさほど詳しいとは言えませんが、ヨーロッパを歩いていると昔の楽器の絵に出会うことが少なくありません。

https://violiniconographyproject.weebly.com/baroque.html

(参考リンク)

その中で、ヴァイオリンなどの弦楽器の絵を見て気づかされるのは、ヴァイオリンが生まれた当初はヴァイオリンは白かったのではないかということです。白というのは言い過ぎかもしれませんが、白木でできたばかりの楽器にシンプルなニスを塗ると、黄色がかった感じにはなるものの今日の我々が見慣れている楽器からはほとんど白いと形容できるような色合いに仕上がります。

ヴァイオリンの始祖の一人と言われるAmati一族の楽器などを見てみても、楽器の色がシンプルなニスと素材である楽器の板が酸化して褐色になっただけの色合いであることが見て取れます。こうした楽器から、ニスと木材が酸化した色味を差し引くと、昔のヴァイオリンはほとんど白っぽかったということが楽器製作者なら誰でも分かります。

しかしながら、現代において白いヴァイオリンを弾く勇気のある人、それを作る勇気がある人はなかなかいません。古い楽器を見慣れているせいで、私もいささか白いままで楽器を提供するのは躊躇してしまいます。

ただ、大事なのは、バロック音楽が花開いた時代、ほぼすべての楽器はそうした新作楽器だったということです。現代においてオールドなどと呼ばれる超高級品は皆無でした。

したがってバロック音楽を当時の演奏を再現しながら楽しみたいときに、古い楽器をわざわざ探すことがどこまで演奏の再現に貢献するかということは実はやや難しい問題になってくるように思います。オールド楽器を持っていなくてもおそらくすばらしいバロック音楽は演奏できますし、またどなたでも楽しめると思うのです。

もちろん、新作であれば何でもよいわけではなく、バロック時代は標準的な楽器がなかった代わりに、各地で特色ある楽器が作られ、特にイタリアが音楽の先進地であったことからCremona やVenezia はじめ各地で多くの(バロック)ヴァイオリンが生まれていたので、そうしたこと背景に作っていくとおもしろいのではないかと思っています。

また、そのためには、当時の木材の伐採や木材の取り扱いの知識、楽器を製作する上でのギリシア時代から続くプロポーションの知識、現代の楽器とは異なった楽器構造の知識、弦の知識、良質な接着剤の知識、塗装の知識、楽器のスタイルを決定する様式美の知識とセンス、弓の知識と製作技法などなど当時の音楽文化を支えた背景を理解することも必要と考えます。

とにかく昔の人たちの経験値の総量というのはものすごいものがあり、科学の名の下に知識を断片化したしまった現代の我々には及びもつかない部分があるので、今さらルネッサンス人にはなれなくとも、できる限りそうしたことをベースに仕事ができると、作り手としての安心感も確実に増しますし、ご購入いただいた皆様にも後々まで楽しい演奏をしていただけるのではないかとも思います。

何より、選りすぐりの木材でしっかり作られた楽器はメンテナンスにもお金がかかりません(!)

パーツの一つ一つにまで物語のある楽器と、どこでどう作られたかよく分かない上に維持管理にお金のかかる楽器のどちらを皆さんは所有されたいと思いますか??

オールド楽器を購入したものの、その後に多額のメンテナンス費用をかけているというお話を聞くたびにやや複雑な気持ちになります。

また、量産の昔の名器のコピー楽器を手にしたけど、後から構造がおかしいことに気づかされ、何年弾いても愛着が湧かないという話を聞いても残念に思います。

落としたり、壊したりしない限り、しっかりできた弦楽器は人の一生以上にもつものです。所有し、年月と共に楽器が育ち、変化し、愛着が深まっていく喜びがあるとよいなと思っています。

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(製作中の肩掛けチェロのネックの様子)