
上の写真はフランスのガット弦製造者、Eliakim Boussoirさんのインスタグラムの投稿です。
https://www.atelier-boussoir.fr
彼は投稿の中で、使い終わった巻弦は捨てないでください!リサイクルできます!と呼びかけています。
当工房でも切れた弦は捨てずにとっておきますが、金属巻線は再溶解してリサイクルでき、中のコアであるガットやシルクはニカワの原料になりうるからです。
ただし、現代普及しているワーニッシュ・タイプのガット弦などは、現代のウレタン系ニスが塗布されているので、リサイクルが難しくなります。
昔、弦楽器製作をはじめたばかりの頃に、今は亡き恩師に何度か言われたのが「ヴァイオリンが生まれた時代の文化は地球と持続的に共生するものだった。今の私たちはここ50年で地球を破壊しようとしている。」というものでした。
私が個人製作になるべくこだわりたいと思うのも、量産ではなく受注生産を喜びたいと思うのも、持続できる地球を子どもたちに残したいと思う恩師の言葉を思い出すからでもあります。
現代の弦は、よりよく鳴るように、より大きく、よりスムースに鳴るように、演奏が映えるように、市場が拡大するようにと作られていきますが、もし地球がなくなったら音楽に何の意味があるのでしょうか?
弦のマーケットなど非常に小さなものなので、弦をリサイクルしたぐらいでは地球環境は何も変らないと思われるかもしれませんが、問題はそこではなく、リサイクルができない小さなものを生活のそこらじゅうで許容してしまっている現代の私たちの鈍感さなのではないかと思います。
昔の人の何百年と続いた農工狩猟生活は、今よりいろいろな意味で貧しいものだったかもしれませんが、持続可能なものであったことは確かだと思います。
ヴァイオリン作りも、木の伐採から始まり、ニス作り、弦作りにいたるまで、すべてが再生産可能な、持続的な知恵に満ちていました。
弦のリサイクルは本当に小さないことかもしれませんが、生活とは所詮小さなことの集合であることを思えば、弦のリサイクルをしてみる、リサイクルできる弦を選ぶということから、まずは私たちのありようを考えてみてもいいのかもしれません。
※モダン弦メーカーでも少ないですが、リサイクルを試みているメーカーがあるようです。ぜひ調べてみてください。