投稿したいと思っていて、なかなか時間がとれなかったのですが、演奏家の方々にも大切なことだと思って書いておきたいことがありました。
仕事を伸ばしていきたい方、ある分野で第一人者になっていきたい方、仕事で成功をおさめたいと考えている方は、よろしければ読みください。
なぜ肩掛けチェロを作ろうと思ったか?
しばらく前にチェロの演奏家の方と肩掛けチェロについて話をしたときのことです。バロック音楽の世界に大変詳しい方でしたので、
「どうして肩掛けチェロを作ろうと思ったのですか?髙倉さんが肩掛けチェロに取り組まれる以前の状況はどのように見ていましたか?」と聞かれました。
それに対して、私は
「肩掛けチェロをシギスヴァルト・クイケンやD.バディアロフさんが持ち出した後は、肩掛けチェロへの批判論文なども出され、感情的な議論になってしまい研究が止まってしまっていたと感じます。肩掛けチェロに対するネガティブなイメージと、不評がありました。」
と答えました。
その通りだと言われました。
「肩掛けチェロがあるから、もう大型のチェロはいらないと言われるような場面もあり、実際多くの不興を買っていました。」と教えていただきました。そのため、「それなのになぜ不評だったのに始められたのですか?」と訊かれたのですが、
私はそれに対し、
「まさに不評だったから、製作しようと思ったのです!」と答えたところ、
とても不思議な顔をされました。
たしかに、なぜわざわざ不興を買っているものを好んで作ろうと思ったのか、一般的にはなかなか理解できないと思います。
しかし、実はその裏には、私自身の「経験」+「情熱」+「マーケティング」の組み合わせがありました。
これを皆さんに伝えて、ぜひこの難しい時代の中で、新たなお仕事を切り開くヒントにしていただければと思います。
不評に飛び込め!
私自身、20年ほど前からバロック・ヴァイオリンの資料を集めたり、実際の楽器や博物館に足を運んで調査をしてきましたが、そのことを通して分かったことは、世界のどこであれ、ほとんどの製作者は大した下調べもせずになんとなくモダン・ヴァイオリンの延長で、バロック・ヴァイオリンを作っているということでした。
そうしたことが経験としてありましたので、肩掛けチェロの状況を見たときに、直観的に、「ああ、これはこじれた感情的な議論になってしまってからは、誰もまともに調査を継続していないな」と思ったのです。
果たしてその直感はあたっていました。
調べ始めたら、肩掛けチェロ肯定派の意見にも、否定派の意見にも穴が目立つということがわかったのです。
そこで、そうした過去の調査や論説には感謝しつつも、私と友人たちで新たな調査を推し進めることとしました。この調査はまだ継続中です。
また、10年前にバディアロフさんと一緒に働いていた時期があったこともあり、肩掛けチェロを直接見せて、聞かせていただき、これは間違いなくもっと使えるか楽器だということを知っていたという経験もありました。ただその頃はバディアロフさんもまだ今ほど情報を公開していなかったので、小さなコミュニティ内でとどまっていたという問題がありました。
情熱はすべてのエンジン
こうした経験に加えて、大好きなバッハの音楽に、本当に肩掛けチェロが関係していたのか追求してみたい!という探求の情熱が加わりました。たったこれだけのことですが、情熱は仕事のエンジンなので、これなしでは、経験もマーケティングも動きません。情熱があるとすべてが巻き込まれて動き出すと感じています。
第一人者になろう!
さて、マーケティングの部分では、上に挙げた「肩掛けチェロが不評だ」ということ、その結果としてバディアロフさんがオランダに移ってからのここ10年ほどを見ても「ほとんど誰も積極的に肩掛けチェロを作っていない」ということ、そしてその裏にある「調査不足」が見えていたので、これらをカバーしていくと、自分自身が大好きな仕事の中で第一人者になってリードしていけると確信しました。
実際に感情的な先入観というものはなかなか根強く、どんなに根拠がなくても一度それに侵されてしまうとなかなか人間の頭はそこを抜け出すことができないため、経験がある人ほど先入観に足をとられてしまいます。そのため、自分が手掛け始めても、しばらくは誰も参入してこないだろうと考えました。
様々な競合が同じ市場(マーケット)に参入してくるときの参入のしやすいを、参入障壁という言葉で表現することがありますが、肩掛けチェロには予め、感情的、専門性不足という障壁が備わっていたので、これらが逆に自分に力になると思いました。
しかもコロナの影響で、私たちが一昨年からしてきたような調査をヨーロッパで行うことはしばらくかなり困難になったため、私個人が知りえた専門領域にたどり着くことができる同業者は当面出てこない状況も生まれました。これはたまたま運がよかっただけですが、追い立てられて仕事をすることが好きではない自分にとっては、後押しとなりました。
結果的に、様々な判断が功を奏してうまくいったのですが、ここで私はこれまでのアクションや運のよさを自慢したいのではなく、演奏家の方々にご自身のまわりに「自分は実は大好きで、とても気にはなっているけど、不評を買っているもの」がないかということに目を向けていただければと思ったのです。
なぜなら、「自分が興味があり、情熱のもとであり」「不興を買っているがゆえに誰もそこに踏み込もうとせず」、その結果としてマーケットが空白地帯になっているものが様々な分野に必ずあるからです。そこでは皆さんが第一人者になるがために、比較されることなく、むしろ皆さんが多くの人にとっての基準となり、仕事を間違いなく新たに開拓していけるからです。
時代は個人の表現の時代に入ってきました。ユーチューバーの台頭を例に挙げるまでもなく、個人が様々な発信をしていける時代です。
この投稿が少しでも皆様のパイオニア精神を刺激するとして、皆さまの果敢な次の一歩を後押しするものとなれば幸いです。