弦楽器業界は小さな業界ですが、最近、仕事の相談を受けることが増えたのは、50歳に近づきつつある自分の年齢のためや、世界中に影響を、与えているコロナのせいもあるとは思います。
ただ、それ以前から日本全体が他国に比べて生産性が低いということが言われてきたことが、コロナの問題で浮き彫りになったためということがもっとも大きな要因であるようにも思います。
さて、その生産性ですが、これ以上に生産性を上げようとすれば、多くの職場ではただでさせ疲弊しているところに、過労がさらに進むだけだと言われそうです。
日本の生産性の低さということは仕事をしていれば誰でも耳にしたことはあると思うのですが、なぜ真面目で勤勉なはずの日本人の生産性の低さにいつまでたっても大きな変化が見られないかと言うと、やはり歴史的に民族全体で共有してきた思考習慣の影響が大きいのかなと思います。
簡単に言えば、中国という大国の横でなんとしてでも生き延びねばならなかった昔からの辺境根性が染みついているということです。(しかし、それ自体は歴史の中で生き残る知恵だったので、決して否定はできません)
物事をはっきりさせずにノラリクラリと躱すことを無意識にやってのける日本人の姿勢は、この地理的風土なしには生まれなかったことと思います。
ですが、そういうことはさておき、実際に今、この時代に生産性を上げる(楽しく仕事し生きる)にはどうすればいいかのでしょうか。
一つは、もっと意識的に「自分からルールを作ること」を考えた方がいいのではないかと思うのです。
よくアメリカ人は自分に得意なルールを作ってそこで勝負しようとする。日本人はルールを作るのは苦手で、ルールの中で得意を発揮しようとすると言います。
実際に歴史の中で培われきたルールの中で何とかうまくやってのけるという姿勢は、よほど意識しないと変わってはいかないと感じます。
ではなぜ変わらないといけないかというと、世界中でリモートワークが推進される中で、仕事の国境や距離が消えてしまったりすると同時に、実際には物理的に人々が移動できず、近くのサービスを必要とするという2つの局面を同時に意識させられる社会が来ているからです。
そのような社会環境の急速な変化の中では、これまでの仕事を如何に維持するかということに頭を向けると、それだけでスタートラインから遅れをとってしまうためです。
つまり、何に意識を向けて、いかに仕事(ルール)を作っていくかということが問われているのだと思います。
説明すると長くなってしまいますが、これには自らの価値観に沿ったルールを率先して作ること、別の言い方をするとチェンジメーカーになることが必要だと思います。
日本はいわば社会全体がイノベーションのジレンマに陥っているかのような状態なので、そもそもの自分たちが持っているルールそのものをスクラップ&ビルドすることが求められていると思うのです。
すなわちサービスやモノを単に提供するだけでなく、それらの背後にある価値観、すなわちルールそのものに目を向けて、疑い、本当に必要なものは何だろうということから発想を捻り出すことができる人が、どの業界にも求められていると思います。
弦楽器業界はイノベーションのジレンマの見本市のようなところで、200年も前から変わらずに信奉されている価値観を後生大事と言わんばかりに大事にしていることが多いのです。
ルールを作ることはそれなりに骨が折れるので、それを避けるためにそうなっていったという面もあるかもしれませんが、それで十分だった時代はもう過ぎました。
いまだに歪んだ資料をもとにコピーした楽器を作り続け、コピーの精度を競い合っているようであれば、とうてい他の娯楽には勝てないと思いますし、娯楽以上の何かがそこにあるなどということは誰も信じなくなると思います。
チェンジメーカーとは要するに芸術家のことです。当たり前ですが、コピー機はチェンジメーカーたり得ません。
奇を衒えというのではなく、自分が本当に好きなことに目を向けることで、人々が必要としてはいたけど自分では気づかなかった価値を見つけ、たとえ自分ひとりでも新たな境界を開拓していく気概のある人々を日本は必要としていると思うのです。
そのもっとも簡単な方法は、まず他の人がやっていることをやらないことではないかと思います。
多様性と、チェンジがこれからますます大切になっていくと思います。
人頼みではなく、自分がまず変わらないといけません。同じ行動は同じような結果を招き寄せるだけです。
などと偉そうに書いてみましたが、他業種の方々と話をして、自分がどっぷり弦楽器業界に浸かっていることを実感することも少なくありませんし、旧来の全てが弊害となっているということでもありません。
変化は常なので、皆さんと一緒に考え、新しい世界を作っていきたいと思います。