

今回、新型ウイルスの影響も大きい中で、調査を実際させていただき、また直接お話する時間を割いてくださったHeller博士に改めて感謝します。
書籍化されていないことも含めて大変熱心に教えて下さり、ほとんど1時間以上に渡ってレクチャーを受けているような感じでした。
いくつかのことをここでもシェアしたいと思います。
もっとも興味深かったのは、Heller博士らの行ったMartin およびJohann Christian Hoffmann の楽器調査において、楽器のもっているすべてのラベルの筆跡鑑定と、またそれと連動した楽器の製作スタイルの検証が行われていたことです。
Heller博士らがブリュッセルにある楽器も含めてHoffmann一族のものに違いないと考えるのは、そうした背景があります。
詳しくはすでに刊行されている書籍 ‘Martin und Johann Christian Hoffmann’ を見ていただくのが一番だと思いますが、すくなくとも主観的、感傷的に論じられてきたこれまでの肩掛けチェロの存在に関する論説とは比べられない説得力がありました。これは肩掛けチェロだけでなく、そのほかの楽器も含めて検証をされ、相互の関連性が明らかにされているからです。
もちろん2重巻線のことについても話題がありました。当時巻線は弦を作る弦職人ではなく、弦楽器職人が作っていました。そのため当時の弦の販売カタログなどから巻線の弦が見つかることは決してないのですが、数々の絵画や文献が巻線の存在は明らかになっています。では2重巻線についてはどうかというと、これが現在文献上見つかっているのは1760年代なのですが、それより以前からあったことは明らかで、問題はいつからあったということになります。
これに直接答えるものではないもののHeller博士より大変おもしろい話を聞きました。それは、J.C.Hoffmannは弦楽器職人であるばかりでなく、当時ライプツィヒの消防管理者の立場にあったというのです。そして、その当時ライプツィヒは火事の消火活動のために、それまでよりもより高い水圧に耐えられる網目のないホースを開発したというのです。職人や技術者たちの監督の立場にあったHoffmann は当然それらすべての人たちと知り合っていたと考えられます。このような高い技術水準の中で、Heller氏も二重巻き線が技術的に難しいことだったとは考えられない、アイデアさえあればできることと話していました。この点は本にも書かれていないかもしれません。
肩掛けチェロの存在を否定する人の多くが、過去に出された「偽物ばかりで現存する楽器がない」「2重巻き線があったのか」などを論拠にしていたことが、Heller博士らの調査の結果、かなりの部分で危うい論説であることを改めて感じる結果となりました。
またすでに出されている研究書や図版などには残念ながら楽器を製作をする上での情報が不足していることも多いのですが、今回丸一日をいただいて直接楽器に触れることができたことで、大変多く資料を採取させていただきました。これはまたこれからの製作が楽しみになる一方で、どうやって実際の製作に反映させるべきかまだ迷う部分ももあり、うれしい悩みが加わった感じです。
Hoffmannの楽器はこれまで確認したブリュッセルとライプツィヒ以外にも存在が確認されているので、また残りの楽器についてはも機会が作れ次第、確認していきたいと思います。
個人的には、今回ブリュッセルの楽器とライプツィヒの楽器があまりに技術的に違うレベルでありながら、なぜか寸法や一部のスタイルに驚くほどの親近性をもっていることの背景が分かったことが大きな助けとなりました。
とても一人でできる調査ではなかったので、改めて博士と同僚たちに感謝します。
