肩掛けチェロ調査2020

左上から時計回りに、私、Alessandro Vistini, Paul Shelly, Daniela Gaidano.

肩掛けチェロは現存しているのですか?

肩掛けチェロのための曲はあるのですか?

こうした質問が幾度となく繰り返されてきましたが、肩掛けチェロと便宜上読んでいる小型の肩掛けで弾くチェロが、そもそも18Cには単にチェロと呼ばれていたということが、記録にも残されていることを考えなければなりません。つまり肩掛けチェロのための曲というのはあるのですか?という質問は、チェロという楽器のための曲はあるのですか??という質問とほとんど同義だとも言えます。

もう一度、モーツァルトの父、レオポルトの記述を思い出してみましょう。

「その昔は5弦であったが、今では4弦のみで演奏される。この楽器はバス声部を演奏する最も一般的な楽器である。いくぶん大きめだったり、小さめだったりするが、弦の張り方の違いで、音の大きさがわずかに異なるだけである。」

「今日ではチェロも両足に挟んで演奏する」(つまり昔はそうではなかった)

つまり今日私たちがよく見るチェロだけが、チェロではなかったのです。もう何度もお話していることではありますが、理解していただけるかぎり言い続けたいと思います。

もちろん、肩掛けなどの横持ちチェロには4弦も5弦もありましたので、多く弦が必要なものもあれば、そこまで弦の数は必要ない曲も多くありますが、チェロはチェロということです。

したがって肩掛けの小型チェロのために限定されて書かれた曲はほとんどありませんが、チェロための曲はたくさんあるわけです。すでにHoffmann タイプの最小のタイプでも、バロックから古典派ぐらいまでの多くのチェロ曲は肩掛けチェロでも楽しめることは多くの方が証明しています。

実際に使われていたかどうかという点では、オーケストラの巨大化、音量の追求、(大型チェロの)チェリストという職業の出現などにより、肩掛けチェロが決して今日にいたるまでメジャーにならなかったことは確かだと思います。実際に使われていたかどうかという点ではかなり絞られると思います。

そして、仮に①実在していた、仮に②曲もあるとしても、③多くは使われていなかったという理由で、現代においてこの楽器の使用をあきらめてしまうのは本当に本当にもったいないことだと感じます。

なぜなら、ヒストリカルな姿を追求することは学術的な面で重要だとは思いますが、そこにすべてを限定する限り、演奏家の表現もパフォーマンスも、仕事の機会も、多くの方の注目を集めて音楽ファンを増やすという使命を全うすることも非常にかぎられてしまうからです。

したがってプロであればこそ、歴史的な探求を深め、史実を確認し、その上で史実に基づくことだけを行うか(一般の人からは理解しがたい、同じことばかりになってしまう恐れがありますが)、あるいは史実としては不透明な点を前提にして、その時点でのみ可能な物語を編み出すかということは演奏家のクリエイティビティを示し、パフォーマンスの質を大きく分けると思うのです。

さて、新型ウイルスの影響で、実際に渡航するまで実施ができるかどうか今回は分かりませんが、もし何も問題がなければ3月中にドイツに行き、現存する小型チェロの調査をいくつかの博物館を中心にできるかぎり行ってきたいと思います。

実際に残っている楽器を見ていただくことで、より多くの方に関心をもっていただき、その結果として演奏家と愛好家の方々の演奏や音楽の機会をさらにダイナミックなものにしていただけるのではと私自身も楽しみにしています。