バロック時代の弦楽器の特徴として、ネックが釘打ちされていることが挙げられる場合が多いのですが、実際にはバロック以後も20世紀に近いしところまで地域によっては釘打ちの製作方法が残っていた様子が伺えます。
また一部釘打ちが、ネジに置き換わったようなケースも見られました。
したがって、バロック・ヴァイオリンなどを購入しようというときに、釘打ちされた古い楽器が見つかったからと言って、「あっ、バロック・ヴァイオリンだ!」と考えてしまうのは、浅慮にあたってしまいます。釘打ちされたモダン・ヴァイオリンも実はたくさんあったということです。
またバロック時代の弦楽器であっても、地域や製作家によっては、釘打ち以外の方法でネックを固定していたものも多くありました。
楽器がバロックらしい芳醇な響きを出すようになるには、ネック釘打ちだけでは語れないということでもあります。
バロック音楽・演奏の裾野が広がるにつれて、バロック仕様の古い楽器を探す人が増えてきましたが、知らずに購入されてから多くの課題を抱えてしまうことも増えてきているように思います。
また、バロック時代とそれ以降の境をなすもっとも大切なことは、時代が近世に近づき、自然科学が発達すると同時にプロポーションの文化が失われてしまったことであると思われます。
伝言ゲームのようなもので、バロック時代にも楽器製作の設計ができたのは一部の親方たちだけであったと思われ、すでにその頃からおびただしい数の楽器が、お手本となる流行りの楽器を元にコピーされたのですが、コピーにコピーが重ねられていくうちに、プロポーションが徐々に崩れた楽器が後世にいくほど増えていったように見えます。
そのようにコピーにコピーを重ねられた楽器は、多くの場合、音響箱のサイズがもっとも大きかったストラディヴァリ(グァルネリやアマティなどはもっと小ぶりでした)よりもさらに全長が大きくなり、fの位置も何を元に配置したか分からない場合もあり、響き(プロポーション)を元に作ったのではないだろうということが見てとれます。
とは言え、それが弦楽器の歴史です。
コピーにコピーを重ねられた楽器をいかにバランスをとって鳴らしていくかということも私たちに求められていることなのだろうと思います。
しかし、これから購入しようとする方はどうかそのことも考えみていただきたいのです。なぜなら、プロポーションに配慮された楽器を手にするだけでも、あまたのコピー品とは区別がつけられるからです。
バロック時代から、オリジナルは実は少数でした。その少数が、探求者であり、設計者であり、マエストロと呼ばれ、模倣するのではなく模倣される側に立った人々だったと思います。