演奏プロの判断は正しいか?~楽器選びにおけるセカンド・オピニオンの勧め

楽器を選ぶときに、演奏の先生を信頼して楽器を選ぶことは一般によく行われることだと思います。

しかし、先生に選んでもらいました…という楽器が工房に調整に来たときに、「本当に先生がこれを選ばれたのか?」と思わざるをえないことが実は少なくありません。そして、たいていの場合、先生は大変に真面目な方で、お金目当てなどで楽器を選んだわけでもなく、あくまで生徒さんのことを思ってなるべく予算に見合ったよい楽器を選ぼうとして選んでいます。そのため、あとから別の場所で楽器の重大な問題をお伝えすると先生も真っ青ということもあります…。

なぜこういうことが起こるのでしょうか?

実はこのような場合、当たり前かもしれませんが先生の演奏技術が非常に高いということが原因としてあげられます。演奏技術の高い先生ほど、楽器が鳴っているかどうかに注目し、楽器に非常に柔軟に体を合わせて音を引き出されてしまうので、楽器がどうであれ、演奏できてしまい、先生ご自身が何の疑問もなく「なかなかいい楽器だ!」と感じて、根っからの親切心で生徒さんに真面目に勧めてしまうということが珍しくないのです。

しかし、演奏の先生=楽器構造の先生ではないことが普通なので、その楽器が先生は弾けても生徒さんに合っているかどうか、のちのち問題が起こらないかということの判断は非常に難しい場合が多いと感じます。

それでも規格が標準化され、山のように選択肢のあるモダン・ヴァイオリンならまだしも何とかなるのですが、ことバロック・ヴァイオリンについては選択肢が少ない上に、情報も少ないので問題が一層起きやすい状況にあると感じています。

こうした問題をなるべく避けたり、軽減するために、演奏の先生のご意見に合わせて、楽器構造上に問題がないか、楽器としてどのような時期に作られたものなのかなどなど、楽器の物理的な側面に関する情報を演奏の先生と楽器屋さんや技術者、製作家が意見を交わし、セカンド・オピニオンを得ておくことがとても大事なのではないかと感じるのです。

なぜならそれをしないと親切心で生徒さんに進めたはずの楽器が、あとで先生にとっても大きなリスクとなる可能性が常にあるからです…。

残念ながら、理想的な、オリジナルの状態で残っているバロック期のヴァイオリンや、またそうしてヴァイオリンを参考にしながら十分な検証を重ねて作られた新作のバロック・ヴァイオリン自体が少ないので、選べる楽器が理想的な状態にないことも珍しくありません。

しかし、少なくともそれがどのような状態にあり、どのような問題を抱えているかということを先生と生徒さんが認識し、それでも使ってみようということであれば、あとから生じる問題ははるかに少なくなると思うのです。

当工房に来られても他所ですでに購入をされてしまった楽器である場合、どうしても問題点を指摘しづらくなってしまいます。自分の判断に誤りがあったのであれば、受け入れたいから指摘してほしいとはっきりおっしゃられる方にはこちらもわかる限りのことをお伝えしていますが、そのような積極的な姿勢がない場合は、問題点を指摘することはこちらにとっても精神的な負担が大きいので、たいていは見ても内心で「なるほど…」と言うだけで肝心なことは何もお話できないことが少なくありません。

すでに購入されたものについては、うまくそれと付き合っていくしかないと思うのですが、まだこれから購入するのだという方については、演奏の先生を信頼しつつ、先生の了解を得ながら信頼できる楽器店や技術者の方のセカンド・オピニオンを聞いておくことをお勧めしたいと思います。どれだけ知恵を出し合っても間違えることはあるので、それはある程度仕方がないことですが、独断だけはやはりリスクが高いと思うのです。