バロックとモダンどちらを買うべきか?

最近バロック・ヴァイオリンに関するご相談をいただくことが増えてきましたので、今日は表題の悩みに対して一つのご提案をさせていただきたいと思います。

楽器を探されている方で迷いなくバロック・ヴァイオリンをご注文下さる方もおられますが、バロック仕様のヴァイオリンを買うべきか、モダン・ヴァイオリンを買うべきか、あるいは両方揃えるべきかということで悩んでいる方も意外と多くおられます。また手持ちのモダン・ヴァイオリンをバロック仕様にしてしまうことを検討されている方や、近くにモダン・ヴァイオリンを専門とされる先生しかいないのでどうするべきかなどケースは様々です。

そもそもバロック・ヴァイオリンとモダン・ヴァイオリンはどこが違うのか?と思われる方も多いと思います。

一般的にこの2つの違いが語られるときに言われるのが、バロック・ヴァイオリンの方が「ネックが短く、太く、表板に対してまっすぐ水平になるようにつけられており」「バスバーが短く」「駒が低く」「ガット弦を用い」「弓はバロックボウ」というようなことではないかと思います。

これらはある程度までは正しいのですが、ではどの程度か?ということになると実はかなり幅があり、一様ではありません。

バロックとモダンのもっとも大きな違いは、バロックにはモダンのようなスタンダードがなかったという点です。

例えば、モダン・ヴァイオリンでは、ネックの長さは基本的には130㎜、表板のエッジから駒の立つ位置は195㎜と世界中で標準化されており、若干の誤差や測り方の違いは人によってあるとしてもほぼその範囲に収まっています。それに対し、バロック・ヴァイオリンにはこうした標準がほぼ存在しませんでした。

バロック・ヴァイオリンの大きさや寸法を決めたのは、ガット弦の限界と特性、人間の手と腕の大きさ、バロック時代まで続いたプロポーションによる設計の3点が主なものであったと思われます。世界共通のメートル法などに基づく寸法はなく、また寸法はあったとしても、明らかにプロポーションが優先された時代でした。

実際、こうしたことを知らずにオリジナルの状態を保って運よく保管されたバロック・ヴァイオリンを調査してみると上記のバロック・ヴァイオリンの概念は次のように書き換えられると考えています。

「バロック初期~後期を通じて多くの場合ネックが短く、太い場合が多く、ただし中にはモダン・ヴァイオリンとほぼ変わらない長さのものもあり、表板に対して完全に水平ではなく若干の傾斜がつけられてつけられており」「バスバーが短い場合が多く」「駒は多くの場合が多く」「ガット弦を主に用い」「弓はアジャスター付きのものはほとんど普及しておらず、クリップ・インと呼ばれる機構のバロックボウ」を使っていた。

しかし、これだけではありません。より重要なのは、こうした説明のしやすさのために選ばれた項目以外にも、説明がされていない違いがいくつもあるということです。

たとえば、バスバーは長さが多くの場合、短かっただけでなく、設置方法、形も違いました。駒はモダン・ヴァイオリンよりも多くの場合低かったのですが、同時にサドルも低く作られていました…etc. 製作者の目線で見ればさらにいろいろなことが実は出てきます。

さて、本題からだいぶそれてしまいましたが、モダン・ヴァイオリンとバロック・ヴァイオリンのどちらを買おうか?と迷われる場合に、これまでは圧倒的に買いやすいモダン・ヴァイオリンを買って、そこを入り口として始められる方がほとんどでした。

問題は、将来バロックをやりたいとなると、楽器の買い足し、買い替えなどの問題に直面するということです。

これまでになかった選択肢の提案

そこで、これまでになかった選択肢として、次のようなことはどうでしょうという提案をしてみたいと思います。

それは、いずれバロック・ヴァイオリンを弾きたい!バロックが好き!だけど、とりあえずはモダンを習う選択肢しかないという場合に、「モダンに近く、しかし後からバロック仕様の楽器としてアクセサリーなどの変更が可能になる楽器」を手に入れるという方法です。

それは、具体的には後期バロックに見られるほとんどモダンとネックの長さが変わらない楽器に(ネックの太さは少し太くなります)、モダンの駒の形に合わせた指板を載せて、モダンの弦で、モダンの弓で弾くという方法です。

そんなデタラメな!と思われますか?

しかし、実際に多くの方がバロック・ヴァイオリンを手に入れらずにモダン・ヴァイオリンで弦のみを交換して演奏したりなどされている現状を見れば、決して上記の提案が荒唐無稽なものではないことを十分ご理解いただけるものと思います。

この提案の利点としては、近場でモダン・ヴァイオリンの演奏方法から習い始めたながら、将来的にバロック・ヴァイオリンを弾きたいというときに、指板と駒とテールピースとナットとサドルといういずれも交換可能な「部品」の交換だけで、手持ちの楽器がバロック・ヴァイオリンに姿を変えることができるということです。

もちろん、デメリットはあると言えばあり、それはバロック・ヴァイオリンの強いテンションに耐えうるしっかりしたボディ(音響箱)を作る必要があるために、モダン弦を前提とし、板を極限まで薄くすることはできないということです。そのため、モダン弦を張っていると少し物足りなさを感じる可能性はあります。また、ネック形状により、古典派以降の音楽を演奏するには困難が生じる可能性があります。特にネックの根元がバロックは太くなるため、ハイポジションの演奏に不便をきたすことは間違いありません。

つまり、万人向けではありませんが、「いずれバロック音楽を演奏できるように始めたいけど、まずはできるところから始めたい」という方で、楽器を買い替えることなく、また楽器を痛めるような大改修をしなくてもよいということを考えれば、ネック長が比較的長く、比較的モダン・ヴァイオリンの仕様に近いもので練習を始めるということは可能なのではないかと考えています。

これについては、来年の春~夏ごろに実際に上記の条件の中で、楽器を作ってみて信頼できるヴァイオリニストの先生にも確認していただこうと思います。そして、ブログでもまた報告したいと思いますので、どうぞ楽しみにしていただければと思います♪