次の2台

次の2台の製作に取り掛かります。

楽器を作るときにどこから作るかということを時々聞かれるのですが、私はネックから作ることが多いです。

その理由としては、表板と裏板ができあがったときには、なるべく薄くなったそれらの板を長い時間放置しないで、早めに横板に接着したいのですが、バロック仕様の楽器を作る場合は特にネックが横板に付いていないと、表裏の板を接着できないので、後からネックを作ると表・裏板の接着までの時間が空いてしまうので、それを避けたいという理由があります。

モダン仕様の楽器を主に作り、あまりバロック仕様の楽器を作らない製作家の方はボディから作って後からネックを作るケースもよく見られます。問題がなければどちらから作り始めてもよいと思います。

どのみち、すべてはプロポーションでつながっているので、それさえ気をつければバラバラになることはないからです。

むかし、自分の先生の1人だったCarlo Chiesa カルロ・キエーザ(ヴァイオリンの歴史研究でよく知られる方です)から、「ヴァイオリンにはアッセンブリー(組み立てる)という考え方はない」と言われ、そのことを何度も何度も考えるのですが、うまく説明はできないものの、私自身もそうだなと感じています。

パーツ、パーツを別々に作って、それを1つに組み上げるのではなく、すべてが常に相関関係をもっていて、その中で作っていくので、「(部品を)組み上げる」という感覚にはなりにくいのです。言葉の問題なので、「組み上げる」という言葉の中に、有機的に統合されている感覚があれば、その言葉でもよいのですが、なんとなくアッセンブリーという言葉とはニュアンスが違うなあと感じています。

一人の製作者がすべてを作る、あるいは弟子に作らせるとしてもすべてを誰かが監修して作られてきた弦楽器の姿がそこにはあるように思います。

 

さて、下の写真はネックの切り出しです。

今日の弦楽器製作ではネックを切り出さずにペグボックスとスクロールを先に仕上げる方法が主流なのですが、私はスクローラヴェッツァ先生にネックを先に切り出すことを学び、それをずっと採用してきました。今日主流となっているペグボックスとスクロールを仕上げる方法の方が作業のしやすさという意味では合理的だと思うのですが、なんとなく合理的な工程として2度、弓鋸を持たなけれならず、昔の人が大事にした早さを犠牲にする気がしてピンとこないというのが率直な感覚としてあるからです。

ネックを先に切り出してしまうとペグボックスの掘り出しの時に少し面倒になるのですが、それはペグボックスの側面ををきれいに仕上げたいという現代的な感覚なような気がして、それよりもさっさと早く作ることを昔の人たちは優先していたような気がどうしてもするのです。