あまり苦言は書きたくないのですが、ちょっとしたことがあり…。
時々、ピリオド楽器を作っています、バロック楽器を作っています…という看板を見かけるのですが、中身を見るといったい何の意図があってそうしているのだろうと思うケースがあります。
あとはモダン仕様の楽器の「バロック化」というものも時々見かけますが…、お客様にどのように説明されているのか、考えるだけで頭が痛くなります。
あまり見ない方がよいのかもしれませんが、たまたま相談を受けたり、見てしまうと技術者の良心の問題なので奏者の方は困るだろうなと…。遊びだと割り切ってならよいのかもしれませんが、まじめに探している演奏者の方は困るだろうなと…。区別がつかないお客様は困るだろうなと…。
モダン仕様の楽器のバロック化は、基本的には当工房で行いません。
やる意味が分からないのと、やったら改造に改造を重ねてしまうことになるからです。もう少し厳しい言い方をすると、でたらめにでたらめを重ねてしまうことになると思うからです。
それはどういう意味かと言うと、まず1つは、かつてバロック仕様であったものがモダンに改変された歴史をもつ古い楽器であれば、ほとんどの場合すでに元の仕様は失われているので、元に戻そうにも根拠がなく「なんとなく」戻すことしかできないということです。そのうえ、いろいろなところの木がモダン化(?)された時に削られてしまっているので、絶対に元通りには戻りません。奏者としては本体が古いのがうれしいのかもしれませんし、先生がそういう楽器を持っているから自分もということかもしれませんが、試行錯誤の歴史の中ですでにそうなってしまった楽器があって使われているのは仕方ないとしても、ある程度検証が進んだ現在において、大金をはたいてそういうことをすることの意味がよくわかりません。頼むところに頼めば意外と安くできるというのなら、それはバロック仕様になっていないと断言できます。費用の問題は外に置いておいたとしても、少なくともバロック時代の人たちはそんな楽器を弾いてはいませんでした。したがってそんなことをしようものなら、もはやピリオド演奏を追い求めることを自分から積極的に放棄しているようなものではないでしょうか。あるいは、もう1台楽器を買うよりは安くつくという純粋に経済的な事情から行われているのでしょうか。そうであったとしても、もとの目的からは遠ざかるだけのように思われます。
またモダン仕様で最初から作られた楽器をバロック仕様に改変してしまうのは、そもそもそのようなどこにもないものを作ることになるので、それもやる意味が分かりません。音を変えてしまうリスクをおかしてまで。もちろん、これとてバロック時代にはそんな楽器はなく、バロック時代の人たちはそんな楽器を弾いていませんでした。
仕事なのでお金を積まれればやるぐらいの商売根性はもっているつもりですが、それでもやりたくないのが正直なとことです。それでも遊びだからやりたいというのならば、遊びらしい豪勢な支払いをお願いしたいと思います。
ピリオド演奏とは何でしょうか?
ピリオド演奏とは、基本的に完全再現が不可能なことをそれでも追い求めようという姿勢そのものであるのではないかと思います。ただ、その不可能さをことさら不可能な方向に仕向けたり、古いモノの方がいい的なクラシック業界的価値観の方向(バロック時代には、新作の楽器があふれていました)においやる必要はないと思うのです。
ともかく、ピリオド演奏を追い求め、素晴らしい演奏をされる方々多い中で、技術者がなんの考えもなしに仕事をすることがあるとしたら残念なことだと思います。