先日、Dmitry Badiarov ディミトリー・バディアロフさんとビデオ電話で話していて、楽器などの価格についての話になったときのことで、とても勉強になったことがあったので、記しておきたいと思います。
演奏家の方にも、製作家の方にも、一般の方にもご参考になる内容だと思います。
その話というのは、価格を安くすることは常に相手のためになると私たちは考えがちだが、現実を見ると必ずしもそうではないという話です。
なぜでしょうか。
私たちは自分の買い物でも、高いよりは安い方がいいと考えがちですが、実際には価格を下げて安くすればするほど、手に入れる労力が下がれば下がるほど、講習会であれ、楽器であれ、何であれ、それを手に入れてから活用することへの真剣さが、多くの場合薄れてしまうのです。その結果、多くの人は安く手に入れて、それ以上に真剣にはならず、安く手に入るだものだしこれでいいやと考え、結果的にただの浪費として物事を終わらせてしまうことが多いということです。
バディアロフさんは、安いものを買うより、自分には無理だと思えるレベルの投資をすることが、現状の自分と、その自分が生み出している状況を脱却する大きな鍵になると話していました。
たしかに私自身を振り返っても、この春のスペインでの研修はものすごく大きな出費であり、投資でしたが、家計に影響するほど大きい投資であったため、必然的にその成果を活かそうと懸命になることができました。結果的にその元はその後1ヶ月ですでにとれていますし、投資を決めるまでに何週間も悩んだのが嘘のようでさえあります。
バディアロフさん自身も楽器製作のかたわらで、毎月のように自宅のあるハーグ(オランダ)からロンドンに行っては、相応の費用をかけて講習を受け、未だに様々な勉強を続けています。
彼が、それらの自己投資が安いと言っている意味が最初はよく分かりませんでしたが、今はそれか何となくわかるようになってきました。
多くの人は、私も含めて、基本的に現状を維持しながら売り上げを上げたり、仕事の成果を伸ばそうとしますが、そのようにして伸びるものは実際のところほとんどありません。ワンステップ上がろうと思えば、今の時点の自分では無謀と思えるようなレベルの挑戦を、冷静な頭で考えぬいて、最後はえいやっ!と挑戦するしかないのです。
こういうことは昔、本か何かで読んだことがあったように思いますが、実際に自分がそれをやるまでそんなことが起きうるとは思ってもみませんでした。今はその仕組みが少し理解できました。
挑戦する力も筋力のようなもので、実際に行動を起こさないとどんどん力が見えなくなりますが、逆に挑戦を一度してみると、力がついて次の挑戦を探すことができるようにもなります。
まだ道のない中で、肩掛けチェロに挑戦される方々も、きっと現状を打ち破って、新しいレベルに自分も周りの人も持ち上げることができる方々なのではないかと思います。
私が肩掛けチェロを作り始めた時に、多くの人のは「マーケットはあるの?ほしい人はいるの?」と聞いてきました。もちろん既存のマーケットなどありませんし、ないことを承知で人は相手に答えのない答えを求めてしまうものです。
しかし、今思うのは、マーケットにせよ、何かにせよ、答えというものはそれを真剣に探し求めた人にしか見いだすことはできないということです。
私は肩掛けチェロに大きな可能性があると感じていますし、それにより演奏者の方々がお仕事と表現の幅をこれまでにないレベルに持ち上げることができるとも思っています。どこかの誰かがマーケットを作るのを指をくわえて待っていても、そのような時は来ないと思うのです。
価値は、価値を見出すことができた人が、それを周囲に問うべきだと思うので、引き続き楽しみながら肩掛けチェロのおもしろさを全国に伝えていきたいと思います。またその時に、変に縮こまらず、演奏家の方が肩掛けチェロに出会うことで、その方にとってそれまでになかったレベルの表現とお仕事を見出して行けるような仕事をしていきたいと改めて思いました。