バロック式のネックは弱いという誤解

バロック・ヴァイオリンとモダン・ヴァイオリンではネックの形状や本体への接合の仕方が違うということはご存知の方は多いと思います。

バロック時代には様々なネックと本体の接合の仕方があったのですが、その代表的なものはネックを本体に釘打ちする方法です。

しかしこのやり方は19世紀のフランスを中心に改編され、今私たちがよく見る本体(音響箱)にほぞ穴を掘ってネックの根元をそこに埋め込むやり方に変わっていきました。(※ネックを本体に埋め込む方法自体はもっと昔からもありましたが)

そのため、昔のバロックネックは弱く、張力に耐えられなくなったから、今の方式に変えられたのだという意見をしばしば耳にします。

昨日も肩掛けチェロのグループ内で、そんな話があったのですが、私はむしろバロック式のネックの方が強いと思うという意見を出しました。

なぜならネックの改編はそれ自体の構造的な問題というより、演奏家からより細いネック、より薄い指板にすることにより、よりハイポジションでの演奏ができるようという要求が高まったことが原因で、そのためにバロック式のネックでは釘打ちの余裕が取れないため、現在のほぞ式に変えられたと考えるからです。念のため言い添えると、後から聞いたバディアロフさんも同意見でした。

そもそも今のモダンネックがより強いと言うなら、なぜ夏になると毎年のように指板が落ちて修理される楽器が後を絶たないのでしょうか。また指板が下がったまま、演奏をされている楽器がどうしてこれほど多いのでしょうか。

実はバロック式ネックの方が強度的にはむしろ強いと私は思います。また適切に使われている限り長持ちもします。

弱いと言う言説は多くの場合、実際にバロック・ヴァイオリンを扱ったことのない人の想像から出ていることがほとんどのようです。ただ、バロック式のネックは、上に述べたように薄いネックにして、モダン・ネックのようにハイポジションの演奏をやりやすくするには構造的に適さないのも確かだと思います。

演奏する曲目のレパートリーによっては、ネックがバロック仕様で釘打ちされていたとしても何ら強度的な問題はないということです。

今回はたまたまこれから肩掛けチェロを作ろうと人からの問題提起で出てきた話ですが、こうした根拠なく信じられていることも少しずつ明らかになって、知られていくとよいなと思います。ネックがバロック式だからと言う誤解の元に楽器が避けられてしまうのは残念だからです。

また、際限なく音量を求めたり、際限なくハイポジションを求めたりするのも、芸術の核心とは実際にはあまり関係のないことではないかと思います。音楽とは耳を通し、心に演奏者の人となりが届くかどうかという文字通りの芸術であり、機能や技術はその再現に貢献することはあっても、核心たりえないと思うからです。