その昔は5弦であったが…

「…その昔は5弦であったが、今では4弦のみで演奏される。」

これは神童モーツァアルトの父であり、自身もかつて神童と呼ばれた名教師レオポルト ・モーツァルトの書いた『ヴァイオリン奏法』(原題: Versuch einer gründlichen Violinschule) に見られる、チェロに関する説明です。

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もう少し前後の文章を詳しく見てみると、次のように書いてあります。

※訳文は全音楽譜出版社から刊行されている『レオポルト ・モーツァルト ヴァイオリン奏法[新訳版]』(久保田慶一訳)から引用させていただきました。

「7番めはバッセルBasselあるいはBassete、あるいはイタリア語のヴィオロンチェロVioloncelloにならって、ヴィオロンセルVioloncellとも呼ばれるものである。その昔は5弦であったが、今では4弦のみで演奏される。この楽器はバス声部を演奏する最も一般的な楽器である。いくぶん大きめだったり、小さめだったりするが、弦の張り方の違いで、音の大きさがわずかに異なるだけである。」

レオポルト ・モーツァルト(1719〜1787年)著『ヴァイオリン奏法』は1756年の秋に出版されています。

バッハ(1685〜1750年)の頃にはまだ5弦のチェロが使われていたのは明らかなので、「その昔は」という言葉が、おおよそ20年〜30前を指すのかなと思いました。当時の人の感覚からすれば(ドイツに人生50年という言い方があったか分かりませんが)、確かにひと昔かもしれません。

しかし、現代の私たちから見ると意外なほど速く時代や音楽シーンが変化したようにも思われてきます。

いずれにせよ、昔は5弦のチェロが珍しくなかったとも読める書き方であることに加え、現代のようにサイズのスタンダード化がされておらず様々なサイズのチェロがあったと読み取れるところも興味深いところです。

『ヴァイオリン奏法』には弓を扱った章もあるので、次回は弓についての記録も見てみたいと思います。

追記 : SNSの投稿でプレトリウス著の「シンタグマ・ムジクム(Syntagma musicum)」にも各種のガイゲ(ヴァイオリン族、ヴィオル族)が解説されていて、それらがレオポルトの『ヴァイオリン奏法』でも列挙されていることを教えていただきました。

「シンタグマ・ムジクムが出版されたのは1614~1620年ですので、レオポルトがチェロは5弦だったと言う「その昔」は17世紀初めのことだったのかと私は想像しています。」とご指摘いただき、他の文献や音楽から推察しても、それは符合するので、その可能性大いにあると思いました。感謝!

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