演奏家と製作家がともに進むために

スペイン出張の課題として、このところバディアロフさんや仲間たちと議論を続けていることがあります。

製作家が本当に演奏家の役に立つ仕事ができるには何が必要かということです。

この問いはシンプルなのですが、問うだけでなく、双方が寄って立つさまざまな前提を切り崩して、本質に一度目を向けようという意味もそこには含まれています。

古い楽器であればよいのか、新しい楽器であればどのようなことができているべきか、言葉にすると膨大ではあるものの、楽器というものが文化の結晶であるならばシンプルでありながら、深い根を持つはずと思います。

演奏家の皆様が喜んで、懸命に、楽しく演奏に取り組めるには楽器がひどく不安定な要素であっては難しいと思います。弾きやすいだけでなく、(音の)掘り込みがいのある力を持った楽器であることが重要です。

また、製作家が知り楽器を成り立たせる文化のかなりの部分を演奏家にも共有してもらってこそ、楽器の価値にいっそう揺るぎないものが発見されるように思います。そこに「寄り立ってよいものがある」ということを実感してもらえるということもあると思います。さらに、作りはともかく音がすべてという面も楽器にはあるわけなので、そこももちろん重要です。

しかし、音に関して言えばこれらすべてが、古くからの文化に基づく素材の見極め、素材の加工技術、デザイン、言語感覚に基づいた音のイメージを持つことによる全体の組み立てなどができれば、自然とついてくるという面も実は有ると思います。

あれこれ新しく付け加えて工夫するよりも、原点に立ち返ることでシンプルに音は解決されていくということです。楽器を作りながら、精緻さだけではない文化のある技術を磨き、言葉を勉強したり、旅をすることの意味もそこにあります。

皆さんは皆さんがお持ちの楽器のことをどれだけ知っていますか?

多くの演奏家が、楽器専門家から勧められて楽器を買っており、それは悪いことではありませんが、専門家に自信があるのならもっと専門家からの掘り下げた説明があってもいいはずと思うことも少なくありません。

皆さんが楽器を購入をした時に説明をしてくれたのは、営業マンですしょうか?それとも専門家でしょうか?どちらが良い悪いということではありません。購入するのはあくまで演奏家であり、のちのちその選択の結果を負っていくのも演奏家になります。ただ、楽器を買うプロセスをもう少しご一緒に考えることができればということは思います。

この辺りの曖昧模糊としたところをなるべくクリアにできるよう製作家がサポートできないかと、スペインへの課題を練りながら考えています。