工房を開設するにあたり、ヴィオロンチェロ・ダ・スパッラ(肩掛けチェロ)を看板にしたいと思いました。それは何よりも10年以上前から私自身がこの楽器のファンであったということと、バッハの音楽に欠かせないと確信すること、また運よくオランダのDmitry Badiarovさんから製作情報を得ることができたことなどが重なったためです。
おかげさまでスパッラのお問い合わせは国内はもとより、海外からもいただいたおり、注文製作にも取り掛かっています。…が先日気づいたのですが、考えていた以上にバロック・ヴァイオリンを取り扱っている弦楽器店や工房が少ないのです。
スパッラはソロ楽器としてもバッハの無伴奏チェロ組曲などを楽しんでいただけると思いますが、通奏低音楽器として他の楽器の中に入ればさらにレパートリーが広がります。ところが、その「他の楽器」が演奏家の方々にとって、あるいは愛好家の方にとっても非常に手に入りにくい状態であるということに今更ながら気づきました。
バロック・ヴァイオリンという呼び名は現代の造語であると言われますが、16~17Cに誕生した形状のままのヴァイオリンを現代の仕様のヴァイオリンと区別して呼ばれているのはご存知の通りです。
バロック時代のヴァイオリンの最大の特徴の1つは、スタンダード(標準的な作り)がなかったということなので、「これがバロック・ヴァイオリンだ」と言えるもの1つだけのものがあるわけではないということです。決まった特徴がないのが特徴と言えるかもしれません。しかしかながら、時代と地域を限定して調べていくと、ある程度の傾向や構造的特徴があるのも確かで、またスパッラと同じで当初は寸法ではなくプロポーションによる楽器作りが行われており、まったく出鱈目に作られていたわけではありません。
現代においてヴァイオリンが生まれた当初の形や構造と響きを再現したり、バッハの時代の響きを追い求めようとするならば、ある程度その頃の製作方法や楽器構造を知らなければなりませんが、実際には得られる情報が非常に少ないため、「なんとなくこうだろう」という推測のもとに(多くの場合は、現在のヴァイオリン製作技法をベースに)作られることが多く、結果的にどこか現代の構造を抜け出せていないバロック風楽器が生まれてしまうことが少なくありません。
もちろん、完全な再現は実は不可能で、われわれがいくら再現しようとしてもどこかしらバロック風であるという点を逃れることはできないのですが、それでもある程度丹念に調べていけば、あまりに的外れなバロック風という領域はいくらか脱することができるように思います。
前置きが長くなりましたが、そういうわけでなんとなくバロックっぽいというものではなく、調査や実際の楽器製作を通して得られた知見をもとに作られたバロック・ヴァイオリンがもっと手に入りやすいところにあったほうがよいと思いました。
そこで、スパッラと並行して、バロック・ヴァイオリンも早速作っていこうと思います。
あわせて、バロック・ヴァイオリンを購入したい演奏家・愛好家の方のために「バロック・ヴァイオリンを購入するときのチェックポイントリスト(仮称)」というものを作ってみたいと思いました。情報があまりに少なく、インターネット上で配信されている情報にも偏りが見られ、ほとんどは2次、3次、4次情報をもとに書かれているため、直接オリジナル状態が残った楽器を見て確認した方が書いたものが非常に少ないと思われるからです。
こちらは配信は2019年5~6月になる予定ですが、もしもご興味がある方がおられれば、下記よりお申込みください。完成し次第配信させていただきます。