5弦の楽器について調べた方は、ほとんど必ずと言って良いほど、ヴィオラ・ポンポーサと、チェロ・ピッコロ(ヴィオロンチェロ・ダ・スパッラ)の違いはあるのかという問題にぶつかります。
その結果、ヴィオラ・ポンポーサと、ヴィオロンチェロ・ダ・スパッラが同じ楽器であると混同されることが多いため、違いを簡単に書いておきたいと思います。
(混同されることが多いのは、どうも日本語のWikipedia サイトに間違った情報の記載があるためのようです。編集の仕方がよくわかりませんが、分かる方がおられたら訂正していただきたいと思います。すでにかなり広範囲に、チェロ音域の楽器をヴィオラ・ポンポーサと呼んでいる形跡がありますが。)
さて、一番の違いは、ヴィオラ・ポンポーサはヴィオラのチューニングで、C-G-D-A と調弦され、それにE線が加わるということで、基本はあくまでヴィオラの音域の楽器だということです。またG.P.Telemann やJ.G.Graunが実際にこの楽器のために曲を書いている実在が確認されている楽器です。
これに対し、ヴィオロンチェロ・ダ・スパッラは、さらに1オクターブ下のチェロの音域(C-G-D-A-E)で調弦されているのです。
ヴィオロンチェロ・ダ・スパッラは、その名のもとに曲が書かれた痕跡がなく、イタリアの文献にその名前が登場するだけです。しかし、そのような名前で作曲家により示されることがなかっなのは、当時はその楽器が単に「チェロ」と呼ばれていたためと考えられます。すなわち、ヴィオラよりさらに1オクターブ下に調弦された様々なサイズのチェロがあったと考えられるのです。
そのようなことから、今日ヴィオラ・ポンポーサとして博物館などで扱われている楽器の中にも、これに相当するものがあったことも考えられます。
またヴィオラ・ポンポーサは、上記のようなことで、バッハの無伴奏チェロ組曲とは本来何の関わり合いもないと考えられます。
しかしながら、上記の違いだけであれば、弦を交換すればいいだけで器は同じとなりますし、博物館などに行きましても、製作者がどちらの意図でつくったものか分からないものが、時にポンポーサ、時にチェロ・ピッコロと命名されて展示されているので、混乱があるのは仕方がないかもしれません。
ここまで書いて、弦だけの違いかと思われたかもしれませんが、これは実は技術的には大きな違いで、この小さな弦長の楽器にチェロの音域を持たせるには、最低音のC弦に二重巻線の構造が必要であり(ガット弦だけでは演奏不能な太さになってしまいます)、ポンポーサ(ヴィオラ音域)を実現するほど話は簡単ではないからです。しかし、二重巻線は当時すでに技術として確立されていたようです。
このように考えておりますが、もし違う見解の方がおられましたら、意見交換をしたいと思いますので、ぜひお気軽に連絡をいただければと思います。
当サイトや、私自身のSNSの投稿等でも誤解を招きやすい使いかたをしてしまっているものがありましたので、言葉選びにも今後は気をつけたいと思います。