スパッラは存在しない楽器?

「ヴィオロンチェロ・ダ・スパッラのために作られた曲は存在しないのでは?」「ヴィオロンチェロ・ダ・スパッラという楽器がそもそも存在したのか分からない」などという話が、残念ながら未だに時々聞かれます。

確かに作曲家の楽譜にそうした指定は歴史的には見られません。

しかしながら、ヴィオラ・ダ・スパッラ、ヴィオロンチェロ・ダ・スパッラ、ヴィオラ・ポンポーザ、ヴィオロンチェロ・ピッコロ、5弦のチェロなど、どのような名称であれ、かつて様々なサイズのチェロが存在し、様々な名で呼ばれるとともに、それらがまた一様に単に「チェロ」という名前で呼ばれていたことに異論を挟む方はいないと思います。

バッハの無伴奏チェロ組曲がこの肩掛けチェロによって生き生きと奏でられることは、すでに幾人もの演奏家が証明しており、実は世界では演奏人口も増えつつあります。

かつてシギスヴァルト・クイケン氏は、ヴィオロンチェロ・ダ・スパッラを弾くと、帰るべき家に帰ってきた気がすると言いました。

ヴィオロンチェロ・ダ・スパッラ「肩掛けチェロ」という呼称を、私たち製作家がわざわざ使うのは、単に足の間に挟んで弾く大型のチェロが定着している現代において、より小さな肩に載せて弾くチェロもあるのだということを示すためだけです。

「伝統とは火を守る事であり、灰を崇拝する事ではない」

というグスタフ・マーラーの言葉を引用するまでまでもなく、固定したベクトルにとらわれず、生き生きとした動きと創造が常に試されることもたまた、クラシック音楽が今日を生きる力となるのではないでしょうか。

ヴィオロンチェロ・ダ・スパッラを使うことで、新たな演奏家としてのポジションを得たり、一つ抜きん出たパフォーマンスを見せる演奏家が生まれつつあるとしたら、それほどうれしいことはありません。

それはもう灰ではなく、コピーではなく、その人にしかできない演奏になるはずだからです。

そうして生まれた希少なキャリアこそが、演奏家自身が次の時代を生き抜いていく上での、力にもなるのではないかと思います。

リスクを取らないことが、一番リスクが高い時代になってきました。

横を見ながら決めたり、誰かの真似をするのではなく、真似される人材になることが求められているのではないかとも思います。

ヴァイオリン、ヴィオラを弾かれてきた方には、ヴィオロンチェロ・ダ・スパッラの演奏は難しいものではありません。

新たなキャリア、新たなお仕事、新しい挑戦を探されている方は、ぜひ当工房にお声がけください。新たな可能性をご一緒に模索できればと思います。