バロックの合理性

年明け最初の仕事はテールピース(緒留め)とエンドピンを結ぶ、テールガットの枕である「サドル」(写真の白いパーツ)の整形から始まりました。

このサドルは昔ながらの方法で、パーフリング(楽器外縁部に埋め込まれた黒と白の象嵌細工)を分断することなく、楽器のエッジに目立たずつけてみました。

実はこの小さなサドル一つをとっても、ヴァイオリン属の楽器が生まれた当初の合理的な設計を垣間見ることができます。

少しサドルから話が逸れますが、バロック時代の人々は今日の我々が考える以上に合理的な精神を持っていました。

ヴァイオリン属の楽器が、ロマン派音楽で活躍するようになるにつれて、ロマンチックな楽器として認識されるようにはなりましたが、そのら本来の姿にはバロックまでの合理精神が隠されているように思います。

今日のヴァイオリンは当初の設計を忘れ、ほとんどの場合は割れ防止を兼ねて埋めたパーフリングを切って、サドルを割り入れてしまっています。これにより、サドルの両脇から生じる板割れが非常に増えてしまいました。

実は同じことがネックについても言えます。ネックも昔はパーフリングを切って本体に食い込んではおらず、パーフリングの外側、すなわち横板の上に密着してつけられていました。

サドルも、ネックも改変が行われたのは実は修理の都合であり、修理の都合がそのまま楽器を製作する上でのスタンダードな形として定着してしまったということでもあります。お手元にヴァイオリン、ヴィオラ、チェロなどをお持ちの方はぜひ写真と比べてみていただければと思います。

バロック時代には今日のような自然科学が確立されていなかったことから、不合理な経験則だけの世界と思われがちですが、このようにつぶさに見ていくと実は後世の我々の方がよほど不合理な状況を放置していることが多いのではないでしょうか。

ヴィオロンチェロ・ダ・スパッラが各所にそうした失われた知恵を盛り込んで作り進めていることはもちろんですが、ヴァイオリンやヴィオラなども、これまでの調査をもとに当時は当たり前であった合理性をしっかり取り込んで作っていきたいと思っています。

何となくバロック・ヴァイオリン風(?)に作られた楽器ではなく、調査と経験に裏付けられ楽器をお探しの方もぜひお声がけいただければと思います。