初期バロック弓を作りたいと考え、しばらく前から資料を集め、弓の専門製作者からも話を聞いてきました。
初期バロック弓は昔のイタリア・クレモナの楽器製作者ストラディヴァリの遺品にもそのテンプレートが残されていることが分かるように、楽器製作者の仕事の一部でした(もっともその頃は製作者は楽器ケースまで自作していましたが)。
実際に作ってみると、初期バロック弓はそのプリミティブでありながらスティックとの親和性の高い構造から、ほとんどTourte以降のモダン(現代)弓とは全くの別物と思えるほどです。
モダンまたはモダンに至る過渡期の弓は弓毛の長さを調整するアジャスターネジが付くようになり、便利にはなりましたが、その一方でバロック弓の発音性能までを受け継いだわけではありませんでした。そのため、今日これらの弓はそれぞれに別の目的を持つものとして成立しているように思います。
モダン弓も間違いなく素晴らしいものですが、今日では高度に専門化されており、世界中によい職人がいるため、そちらの方は専門の弓製作者に任せたいと思います。
一方で初期バロック弓はまだ普及しているとは言えませんので、まずは皆さんのセカンド・ボウとなって楽しんでいただけるように今後も当工房でも引き続き作っていきたいと思います。
何よりJ.S.Bach は、アジャスターのついた弓を見たことはなかったということはもっと知られてよいことではないでしょうか。