ひさびさにガット弦エキスパートのDanielaの動画を紹介します。
以前にご紹介した内容も含まれているかもしれませんが、固定観念で凝り固まった頭をほぐすには私自身も何度も彼女の説明に耳を傾けないといけないと感じているため、重複はご容赦ください。
今年、Danielaを招いて行わせていただいたガット弦セミナーに参加された方は、スライドで様々な昔の文献と図版を直接ご覧になったと思いますが、今、私たちが一般的に知ってるガット弦(Danielaの言うところのモダン・ガット)と昔の18世紀までのガット弦の違いには驚かされるばかりです。
リンクを貼った下の動画の中では、現在のガット弦と昔ながらのガット弦のしなやかさの違いを実際にDanielaが示してみてくれています。ぜひその違いをご覧になってみてください。
Danielaによると、ガット弦が現在のように硬いものになったのは、歴史の中で、テニス用のガットや手術用のガット(縫合糸)の需要が高まり、それらの大量製造にガット製造者が基準を合わせてしまったからだということです。
またそれによりガット弦メーカーのピラストロが、「完璧な5度」を生み出せる弦という謳い文句で、変質したガット弦を19世紀以降に売り出します。
昔の文献を見ても「完璧な5度」という概念はそもそもなく、この変質し、均質化されたガット弦から、4弦全体のバランス(調和)を重視するモダン弦の歴史が始まったと言っても良いのかもしれません。
その歴史は今に続き、弦と言えば、全ての弦がそもそもバランスがとれて弾けるものと認識され、化学繊維や金属のコア(芯弦)をもったプロダクトも、その設計思想のもとに開発がされているものと思われます。
いわば「完璧な5度」という概念と謳い文句は、市場に硬いガット弦を導入する上でのマーケティング・広告戦略であり、ピラストロ社はそれによって新たなマーケットプレイスを開拓し、成功を収めたと言えます。完璧な5度の概念は完璧なマーケティング戦略だったとも言えるかもしれません。
動画の中で、Danielaも説明をしていますが、ニスによってカバーされていない昔ながらのガット弦はしなやかで、音色が豊かですが、弦の作りが違うためにゲージも異なります。
ゲージについても時々ご質問をいただくことがありますが、同じメーカーでもモダン・ガットとピリオド・ガットによる弦を製造していたりしますので、一概にこのゲージがよいと言うことも難しいことがこの動画の中でも見てとれます。
ゲージについては、私自身も過去の調査の中で、オリジナルを保った楽器のナットの溝やテールピース穴の径などを計測してきていますので、来年以降はそれらを組み合わせて、ピリオド仕様の楽器も精力的に製作していきたいと思います。
その楽器にどのような弦を張るかは、また弦メーカーと共に皆さんと相談していきたいと思います。
https://www.facebook.com/gutstringsexpert/videos/196664627900681/