ヴァイオリン製作学校、次のステップ

今日はやや重い問題ですが、弦楽器業界が長年抱えてきた大きな問題について書いてみます。このことに触れたいと思ったのは、現在少しずつ進めている全日制

https://takumiviolinmakingschool.com/curriculum/

とは別の新しいプログラムの内容や考え方を私自身も整理してみたいと思ったためです。

さて、その問題とは、弦楽器修理の専門家ではない方が何となく直せるだろうという発想で楽器や弓に手を入れてしまい、結果的にそれ以前よりも問題の多い状態にしてしまったり、修理・調整をしたはずが逆に楽器や弓を壊してしまったりするということが絶えないことです。

もちろんアマチュアという言い方で一括りにするのは乱暴というもので、アマチュアの方の中には、文字通り楽器を愛し、良心的で研鑽を怠らず、常にプロにアドバイスを求め、判断力を備えた方がまれにいます。しかし、その一方で残念ながら壊れた箇所を木工ボンドや瞬間接着剤で適当にくっつけて取り返しのつかない損害を増やしてしまうような事例は、後を絶たないことが弦楽器業界においては未だに解決されていません。

これはプロが決して失敗しないと言っているのではなく、プロは失敗する可能性も含めて可能な限り「可逆的」な対処が可能となるような方法を常に考えており、また可逆的な処置が不可能なことについてはそれを踏まえて予備的な対処をすることも心得ているということです。(その意味で、学校は修理のやり方を教えるだけでなく、あらゆる修理が楽器を逆に壊す危険性をはらんでいるのだということを知ってもらい、必要のない修理を避けることを教える場でもあると思います。)

またプロであれば、自分の殻に閉じこもらず、技術交換に関する人的ネットワークを持ち、常に意見を受けられるような環境を持っていることも重要と思います。

つまり、プロとは自分が最上の技術を持っていると自信満々に考える人ではなく、もしかすると将来的に今の自分が知るよりもより良い方法が見つかるかもしれないということを念頭において対処の方法を決めたり、また目前のリスクを極力回避できるようにする訓練を受けてきた人であるとも言えます。

それにより、楽器はもちろんのこと、楽器の保有者も、また技術者自身も、そして場合によっては一つの文化財を守ることもできるからです。

私自身も楽器製作はプロ・アマ問わずに教えても、修理や調整についてはプロになる覚悟がある人にしか教えてきませんでした。

しかし、こうした問題は学校とは無関係のところでは常に続いており、何か学校としてこの積年の問題に対処することはできないだろうかと考えきました。ちなみにこれは日本だけの問題ではなく、海外でもまったく同様のことか見られることなので、ある意味世界的な問題とも言えます。

アマチュアの技量が上がれば問題が解決するかというと、そこには別の問題があります。プロの人は職業上知り得る知識や技術をそれを知りたいというアマチュアの方にただで教える理由はありませんので、実はアマチュアの方の技量を上げる機会がほとんどないという問題です。そのような現状がありながら、教えてもらえない、あるいは教わったことがないアマチュアの方が、プロの人から頭ごなしに「何も分かっていないのに楽器を触るな」と言われても、素直に聞き入れられないのが人の常ではないでしょうか。良い方向に物事を動かしたいのであれば、常識的な範囲で話の通ずる関係である限りは、対話の仕方というものがとても大事だと思います。

プロ・アマ問わず、しっかりした見識を育て、それを業界の価値としつつも、同時に楽器を誰もが楽しむことのできるような、楽器にふれることの敷居を低くする工夫を合せ持つことができないだろうかと思います。

一つ考えているのはこの問題に対処するには個別の対処しかないのではないだろうかということです。

学校では通常は同じぐらいの知識・技術レベルの人が入学してきて、一斉に学ぶので、こちらから一定のカリキュラムを提示することができますが、レベルがばらばらのアマチュアの方に学んでいただこうとすれば、課題解決の方法も個別となるはずです。

個別の課題をしっかり見極めて、課題を設定し、1人1人の技量と見識を個別の課題に沿って上げていくことができれば、少しずつですが楽器の扱い方に関する楽器を共有できる輪を広げていけそうな気がします。

これについても、関係者と協議を続けながら、来年までに学校のHPを通じて一つの案を提示できればと思います。