オランダの弦楽器技術者として知られた故Frederick Lindemann(1932~2017)は、弦楽器技術者の間では、メトロポリンタン博物館に納められているストラディヴァリウス ‘Gould’ のリバロックをした人としても知られています。バロックについては、クイケンとのつながりが大きく、『The Rebirth of the Baroque Violin』(2010)を著したことでも知られます。
リバロック re-baroque とはモダン仕様に改造された楽器を、もともとのバロック様式の仕様に戻すことを一般に言います。ネックの長さを一般には短くしたり、バスバーを交換したり、駒を交換したり・・・
なぜそのようなことをするのかというとフルサイズ、もしくは4/4サイズと言われる大きさの一般的なヴァイオリンとして見ると、世界中どこを見渡してももはや1台たりと、ストラディヴァリが当時作った仕様で残っている楽器はないからです。これは18~19世紀にかけて、楽器の改造が大幅に行われたことによります。
前置きが長くなってしまいましたが、今日の本題はそこではなく、ガット弦エキスパートのDaniela の動画で、Lidemann にふれて興味深い逸話を教えてくれていたので、こちらで日本語で紹介したいと思います。
Lidemannは生前その父親(Jan Lindemann)とともにコンセルトヘボウ管弦楽団の楽器メンテナンスに関わっていましたが、ある時LinemannがDaniela に手紙を送った中に、次のような話があったということです。
それは1970年代のことで、父親がある日メンテナンスしたコンセルトヘボウ・オーケストラの楽器にPirastro のCorda弦が張られていたということが書かれていいたそうです。
たったこれだけのことですが、これはどういうことでしょうか。つまり、70年代(私が1972年生まれなので、本当についこの間のことと言ってもまだ大丈夫だと思うのですが)、においてまだモダンのオーケストラでも裸のガット弦が使われることがあったということです。
もう一つやはりLindemannがDaniela に語ったことで、おもしろい話が紹介されていましたが、60年代にアメリカからのコンサートマスターがコンセルトヘボウに入った際に、指揮者がそのヴァイオリニストがE線にスチール弦を張っているのを一瞥して、「当地ではそういうことはやらないのですよ」と冷ややかに言ったということです(笑)。
こうした小さな逸話は、弦の歴史をたどっていく上では些細なことかもしれませんが、今自分がたちが知っていると思っている音の姿を探究する上で、たくさんの示唆を与えてくれるものであるように思います。