ガット弦について学ぶ理由として、ガット弦の音が好きなのか、古楽に興味があるのか、バロック・ヴァイオリンを作りたいのか、ヴィオロンチェロ・ダ・スパッラを作っているからかなど、いろいろと聞かれることがあるのですが、実はもう少し根本的な理由があります。
それは弦がなければ、楽器は設計できないからです。
私は長い間、まず楽器を作り、それからどんな弦を張ろうかという発想でした。もちろん自分の楽器に張る弦を想定してイメージすることはあっても、「あの弦を使いたいなあ」とイマジネーションを膨らませることだけが基本な姿勢で、それ以外にはあまり考えられませんでした。
弦の選択肢はある意味増え続けていますので、そういう発想になっていたのかもしれませんし、現代の個人製作家の楽器製作方法の多くがそうなっていた中にあったということもあります。
しかし、先最近になって弦がなければ楽器が作れないという当たり前のことに気づきました。
先日、ある方と楽器のコピーについて話をしていて気づいたのですが、ストラディヴァリやグァルネリ(あるいはグァダニーニでも何でもあれ)をモデルにしたコピー作りをしている限りは、昔の名人の作った楽器に近づこうという意図が強く、なかなか弦には意識が行きにくいのです。
しかし、弦がなければ本来楽器は設計すらできないので、ガット弦の音が好きだとかどうと以前に、必要条件として、まず弦を知ることから始めなければならないと感じました。また、ヴァイオリンが生まれた当初の弦についてもう少し深く知りたいと思うようになりました。
このように書くと、製作者の方からは、「当時の弦のリミットや性質を知ることで、作られることができた弦長や弦の太さを知ることができる」からと思われるのですが、もちろんそういう部分もあるのですが、それだけではなく、単純に弦を鳴らさなければ音が出ず、音が聴けなければ設計ができないためです。ムラのない健康な弦を手に入れる必要があるのです。
と、ここまで書いて思ったのですが、私は今は楽器設計には手頃なギターのナイロン弦を使ったりしていますが、案外ガット弦を学んで理解しても、結果的にはナイロン弦を使って設計をしていることともしかしたら大差ないかもしれません。それでも、やはり製作者として、また講師として、一歩踏み込んだことを知っておく必要はあると考えています。