なぜ弦楽器製作家になったか

なぜ弦楽器製作家になったかということは時々聞かれる質問です。

製作家になる理由は人によって様々だと思いますが、私にとってはJ.S.Bach の音楽がその大きな理由の一つです。

こう書くとバッハ・フリーク(バッハの熱狂的な信者)なのかと思われるかもしれませんが、まったくそうではなく、実際おそらく私が知らないバッハの音楽の方が多いと思います。

しかしながら、私が子どもの頃から知る数少ないバッハの音楽が、私にとってはこの先千年は(それは人間の寿命からすれば、ほとんど永遠と同義でしょう)残るだろうと思われるものなので、そのような音楽のために働きたいと思ったのです。

私は宗教的な信仰は持ってはいませんが、バッハの音楽は何かいつも自分の足元と同時に広大無辺なものを同時に見せてくれような感覚を覚えさせてくれます。それにより、自分の悩みがちっぽけなものであることや、人生の根源には安心すべきものがあるということを感じさせてくれる音楽です。そういう音楽に支えられた感謝として、その音楽を提供する演奏家の方々や、演奏を楽しむ方々をサポートできたらという思いがこの仕事に自分を進ませたように思います。

写真はバッハが無伴奏組曲を書いたチェロのネック(製作中)です。現代では大型のチェロが一般的にはチェロとして認識されていますので、写真のネックは小型のチェロ、もしくはヴィオロンチェロ・ダ・スパッラと呼んだ方がよいかもしれません。

ただ、バッハの親しい製作者が小型のチェロを作っていたことが知られていることや、大型チェロの当時の奏法では非常に技術的に演奏が困難な点があることから、当時はこの小型のチェロが、「チェロ」として認識されていた可能性は大いにあると考えています。

この小型のチェロ、ヴィオロンチェロ・ダ・スパッラで演奏を楽しむ演奏家が増えてほしいなと思います。