伸びる人

10年以上普段若い人たちに技術を教える中で、特別なことではなくとも、時間を重ねれば重ねるほどに物事を学ぶときにその重要性を痛感することがいつくかあります。

一番重要なのは、その人の人としてのありようであることは間違いないと思います。これは決して講師として上から物を言っているのではなく、年齢に関係なく大変尊敬できる人物というのはいくらでもいるからです。

尊敬…と言ってしまうと堅苦しく感じられるかもしれませんが、周囲によい空気を与えることができる明るさがどこか根本にあるということだ思います。

おしゃべりが上手な人もいれば、寡黙で決しておしゃべりは得意ではない人もいますが、明るさがその人の目に見えるかということがやはり大事です。仕事は決して一人では完結しないので、技術以前に本当に人としてどう「あるか」が大事だと感じます。「何をするか」よりも「どうあるか」がまず大事です。そしてそのありようは確実に技術の習得にも影響します。

技術の面においては、やはり当たり前のことではありますが、基礎が本当に大事だということです。たとえば刃物を研ぐこと、手順を飛ばさないこと、細部を見つつ全体を常に見ることなどです。

また最初は言われたことを素直にそのままできるかということも大事です。これが「ありよう」が技術の修得に影響するということでもあります。最初から自分らしさを出してしまう人は、自分という上限を勝手に設けてしまうので、遅かれ早かれどこかで基礎不足による伸び悩みがきてしまいます。自分の味は意図しなくてもいずれ滲み出るので、まずは言われたことができるかということに専念することが、後で大きく伸びていく一つの土台となるように思います。

これらは実は誰にでもできることで、つまりは誰でもできることを、やるべき時にできるかということが本当に大事なのです。それをしなければ、「誰にでもできることさえできない」という評価が周囲からついてしまうのは当たり前のことです。このように読むと何だそんな簡単なことかと思われるかもしれませんが、大抵の人は、私自身も含めて、やってみて初めて自分が自分で思うほど素直ではなく、沢山の癖を持っているということに気づきます。

職人の世界、技術の世界は修行が厳しいと言われることがよくありますが、厳しくしてしまうのは、大抵の場合技術そのものではなく、物事の受け止め方と表出の仕方を決めている、技術者・製作家本人のありようであると思います。

3月の期末が近づき、そんなことを考える今日この頃です。